ファンドと金融商品取引法2


株券や社債の募集や私募は、金融商品取引業ではありません。金融商品取引業を行うためには、金融商品取引業者として登録を受けなければなりませんが、株券や社債の取得勧誘は金融商品取引業ではないので、発行者は金融商品取引業者である必要はありません。

当然といえば当然で、株券や社債の取得勧誘を金融商品取引業にしてしまうと、すべての株式会社が金融商品取引業者でなければならなくなって、不都合が生じるからです。

これに対し、投資信託や組合出資持分の募集や私募は、金融商品取引業です。

<自己募集>
自己募集とは、金商法の言葉ではありませんが、発行者が自ら行う募集や私募のことです。発行者が自ら行う私募を「自己私募」と呼ぶ人といます。

繰り返しになりますが、自己募集とは、読んで字のごとく、発行者が自ら行う新たに発行される有価証券の取得勧誘のことです。だから、株券や社債の発行者による募集や私募は自己募集、投資信託や組合出資持分の発行者による募集や私募も自己募集です。

自己募集のうち、投資信託や組合出資持分の自己募集は、金融商品取引業です。だから、発行者は、金融商品取引業者(第二種金融商品取引業)として登録を受けていなければできません。

もう少し実務に即して説明すると、匿名組合契約を出資者(投資家)と締結しようとする事業者は、金融商品取引業者として登録を受けていなければならないということです。

匿名組合契約に限りません。民法上の任意組合契約にも同じことが言えます。任意組合の業務執行組合員が、お金を集めるために、出資者(投資家)と組合契約を締結しようとする場合には、あらかじめ、金融商品取引業者として登録を受けていなければなりません。

<金融商品取引業にならない自己募集>
組合出資持分の自己募集を金融商品取引業として金商法の規制の対象にした理由は、投資家が、金銭を増やす目的で、金銭の運用を他人に任せるからであると説明されます。

だから、出資者が金銭を増やす目的がない場合、つまり、出資者が金銭の出資をしても、出資金を上回る金銭が戻ってくる可能性がゼロの場合には、組合出資持分の自己募集は、金融商品取引業になりません。

また、金銭の運用を他人に任せることがない場合、つまり、組合契約は締結したけれども、組合のすべての意思決定に、組合員全員が関与する場合も、組合出資持分の自己募集は、金融商品取引業になりません。

<募集の取扱い・私募の取扱い>
組合出資持分の発行者が、自ら取得勧誘を行うことはなく、他人が発行者のために、取得勧誘を行う場合、発行者は取得勧誘を行っていないのだから、発行者に金融商品取引業者としての登録を受けることは義務付けられていません。

この場合、発行者のために取得勧誘を行う者が、金融商品取引業者としての登録を受けなければなりません。

具体的にいうと、匿名組合契約を出資者との間で締結しようとする事業者が、自ら出資者を探すことなく、金融商品取引業者(第二種金融商品取引業)に出資者を探す行為をすべて委託した場合には、金融商品取引業者としての登録を受ける者は、事業者ではなく、出資者を探す行為を受託した者だということです。

このように、発行者のために、取得勧誘を行う行為を、発行者が募集を行う場合には、「募集の取扱い」、発行者が私募を行う場合には、「私募の取扱い」といいます。

<募集の取扱い・私募の取扱いの顧客>
では、問題。

募集の取扱いや私募の取扱いを行う金融商品取引業者の「顧客」は誰でしょうか。

例を挙げると、匿名組合契約を締結しようとする営業者のために、匿名組合員になろうとする者に対して、「匿名組合契約を締結しませんか?」と誘う場合(組合出資持分の取得勧誘を行う場合)、取得勧誘を行う金融商品取引業者にとって、「顧客」とは、営業者(発行者)か、匿名組合員になろうとする者(投資家)か、どちらなのかという問題です。

金融商品取引業者(第二種金融商品取引業)が行う募集の取扱いや私募の取扱いは、営業者(発行者)のために行う行為なのだから、金融商品取引業者にとって、顧客は営業者であることになります。

これが正解。

ただし、金融庁が、募集の取扱いや私募の取扱いの相手方である投資家も、金融商品取引業者の顧客であるという解釈を示しているため、実務では、投資家も金融商品取引業の顧客として取り扱われています。

実務的な影響としては、金融商品取引業者は、発行者にも投資家にも「契約締結前交付書面」を交付しなければならないという義務が生じることです。ただし、金商法施行直後、発行者に対する契約締結前交付書面を定めた条文が削除されましたので、募集の取扱いや私募の取扱いを行う金融商品取引業者は、投資家に契約締結前交付書面を交付すれば良い、ということになります。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

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プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、200社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

メールマガジン:、読者数国内最多の金融商品取引法専門メールマガジンを金融商品取引業者と金融当局に配信中

JSL行政書士事務所代表
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階
電話:03-5533-8785
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