法定帳簿と定義3


証券取引法時代、注文伝票で大きな問題になったのは、金商業者(当時は証券会社)が、売買の「媒介」をしたときに、注文伝票を作成する義務があるかどうかという点でした。

<売買の媒介、取次ぎ又は代理>
有価証券の売買の媒介、取次ぎ又は代理の意味を復習してから、この問題の解決と現代的意味を考えてみましょう。

有価証券の売買とは、自己売買(金商業者自身による売買)のことです。このときは、注文伝票を作成するということは既にお話しした通りです。

「おかしいじゃないか。注文伝票には、受注日時を書くと言っておきながら、自己売買には受注なんかないじゃないか」

このご指摘は鋭いです。そうです。だから、自己売買のときは、「受注日時」を「発注日時」と読み替えることは、金商法その他で規定している通りです。

受注があるのは、他人(金商業者から見ると顧客)の売買に金商業者がかかわったときに限ります。

他人の売買の関わり方には、3つの関わり方があります。媒介、取次ぎ又は代理です。

<取次ぎ>
便宜上、取次ぎから説明すると、取次ぎとは、「自己の名義」で、「他人の計算」で取引を成立させる行為です。

自己の名義とは、既にお話しした通り、金商業者の名前でという意味です。

他人の計算とは、顧客の財布(お金)でという意味です。

他人(顧客)のお金で、自己(金商業者)の名前で取引を成立させる場面とはどういう場面か?というと、証券会社が顧客から上場株式の売買の注文を受けて、金融商品取引所に注文を流す場面です。

つまり、金商業者が「問屋」として機能するときです。問屋は、大勢の顧客の注文を束ねて、問屋の名義で売買を行います。問屋は商法に規定されていますが、問屋の典型例は、証券会社であると商法でも説明されます。

実は、注文伝票が想定している金商業者の行為(金商業)は、「取次ぎ」です。

まとめると、注文伝票を作成しなければならない場面は、自己売買と委託売買(顧客の売買で自己売買の対義語)のうち、取次ぎに係る売買に限ります。

証取法時代問題になったのは、「じゃあ、金商業者が有価証券の売買の媒介をしたときには、注文伝票を作成しなくてもいいんだね?」という点でした。

当時、といっても、もう昭和の時代ですが、大蔵省もこの問題に決着をつけることができませんでした。問題が難しすぎたのです。

「伊藤メモ」という有名なメモによると、金商業者が有価証券の売買の媒介をしたときには、注文伝票を作成する必要がないということでしたが、大蔵省からの公式見解は出ていませんでした。

仕方なく、証券会社は慣習として、売買の媒介の場合も注文伝票を作成していました。

この証取法時代の大問題に決着をつけたのが金商法です。

<媒介>
有価証券の売買の媒介とは、「他人の名義」で「他人の計算」で取引を成立させる行為です。正確には、取引の成立に尽力する行為ですが、多くの場合、尽力するにとどまらず、取引を成立させてしまいますから、実務的には、取引を成立させる行為です。

金商法は、金商業者が有価証券の売買の媒介を行ったときには、「有価証券の売買の媒介にかかる取引記録」を作成することを金商業者に要請しています。

媒介の取引記録に、受注日時や約定日時の記載は不要です。受注はあるかもしれない(実際はある)、約定もあるかもしれないが(実際はある)、媒介とは、取引の成立に「尽力」するだけの行為であって、取引を成立させる当事者は、顧客(他人)であるから、金商業者には正確な受注日時や約定日時を把握することが不可能と理論的に考えられたからです。

したがって、有価証券の売買の媒介を行った金商業者は、わかる範囲で売買の媒介の記録を残しておけばよいという決着を金商法はつけたことになります。

<代理>
証取法が金商法に改正された際、有価証券の売買の代理は、金商業から削除すべきでした。

代理とは、「取引一任勘定取引」のことです。

「他人の名義」で「他人の計算」で取引を成立させる点は、代理も媒介と同じですが、代理というくらいですから、他人は自己(金商業者)に、取引成立の代理権を与えた場合が有価証券の売買の代理であって、媒介と異なります。

取引一任勘定取引とは、金商業者が、顧客のために、顧客に代わって取引条件を決定してしまい取引を成立させる取引であって、証取法時代を引継ぎ、金商法でも原則として禁止されています。トラブルのもとになるからです。

例外は、「特定同意」(説明は省きます)がある場合の取引などに限定されます。

金商業者が顧客をフルに代理してしまうと、それは、「投資運用業」です。この整理が証取法時代はなかったので、有価証券の売買の代理を金商業とする意味はありましたが、金商法に投資運用業が定義されたのだから、有価証券の売買の代理は金商業から削除し(絶対禁止とし)、有価証券の代理をやりたかったら投資運用業の登録を受けなさいとすれば良かったのです。

いずれにしても、有価証券の売買の代理が金商業として残ってしまったので、代理と媒介には大きな差はないことから、有価証券の売買の代理を行った金商業者は、有価証券の売買の代理にかかる取引記録を残すように規定されています。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。現在、JSL行政書士事務所代表。多数の金融商品取引業者の顧問に就任。

JSL行政書士事務所は、100社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

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