法定帳簿と定義4


前回までは、既に発行された有価証券の売買にかかわる法定帳簿について説明しました。

では、新たに発行される有価証券の取引にかかわる法定帳簿は何か?

新たに発行される有価証券の取引は、自己募集若しくは自己私募又は募集の取扱い又は私募の取扱いです。

<自己募集>
自己募集(自己私募)とは、自ら発行する有価証券の取得勧誘であって、実務的には、投資信託の取得勧誘と組合出資持分の取得勧誘のことです。

いずれも、第二種金融商品取引業です。

<募集又は私募に係る取引記録>
自己募集は、既発に関する自己売買の新発版であるため(少なくても金商法をそう考えた)、自己募集を行うときには募集又は私募に係る取引記録を残すのですが、受注日時と約定日時を記載することが義務付けられています。

募集又は私募に係る取引記録の記載項目や記載方法は、注文伝票に合わせています。繰り返しになりますが、募集又は私募に係る取引記録は、既発有価証券の売買と同じと、金商法は考えたからです。

だから、いわゆるファンドの自己募集を行ったときは、金商業者は、受注したとき、つまり、投資家から注文があったときから速やかに取引記録を作成し始めなければなりません。

例えば、不動産ファンドの自己募集をする場合、自己募集を行う金商業者は、受注したとき、速やかに取引記録の作成を開始するということです。

「実務的にどうなの?」という疑問は残るものの、金商法(金商業等府令)に規定されている通りです。

なお、募集又は私募に係る取引記録には、受注日時と約定日時を記載しなければなりません。日時とは、秒まで含めるということは既にお話しした通りです。

また、自己募集の場合のみならず、買取り、解約、払戻しがあった際にも、募集又は私募に係る取引記録を作成しなければなりません。

買取りとは、販売した有価証券を買い取る行為です。投資信託やファンドの自己募集を行った金商業者が、投資家の買取請求に応じて買い取ることを想定しています。

解約とは投資信託の解約を、払戻しとは投資証券(投資口)の払戻しを想定していますが、ファンドの場合も同様です。ファンドの場合、買取りということは考えにくいので、解約か払戻しになるわけですが、契約書上は「解約」となっていても、エクイティの現金化(流出)であるという点で投資口の払戻しと同じですから、金商法上は払戻しと考えるべきでしょう。

<募集の取扱いに係る取引記録>
問題は、募集(又は私募)の取扱いに係る取引記録です。

募集の取扱いとは、発行者が有価証券の募集を行う際、発行者に代わって、投資家を探してくる行為(取得勧誘をする行為)のことですが、このとき、「取引」(契約)が発生するのは、発行者と金商業者の間です。

発行者と金商業者が「募集の取扱いに係る契約」を締結する行為が、契約として発生するだけで、投資家と金商業者の間には何の取引も発生しません。取引の当事者は、発行者と投資家であって、金商業者は単に発行者のために投資家を探してきただけですので、当然のことです。

にもかかわらず、募集の取扱いに係る取引記録には、受注日時と約定日時を記載することが義務付けられています。この受注日時と約定日時は、募集の取扱い契約の成立の日時を言っているのではなく、金商業者が投資家から、有価証券の取得の申込みを受けた日時と投資家が金銭を払い込んだ日時を指しています。

募集の取扱い(私募の取扱いも当然同じです)は、金商業者が発行者と締結した契約に基づいて、発行者のために、発行者に代わって行う行為に過ぎないのに、なぜか、募集の取扱いに係る取引記録は、投資家からの注文に関する事項を記録することになっています。

余談ですが、パブリックコメントでも指摘されている通り、募集の取扱いの際に、投資家に契約締結前交付書面を交付するのも、募集の取扱いの定義からおかしな話です。募集の取扱いの顧客は発行者でしかあり得ないのに投資家も金商業者の顧客と想定ている金商法は、明らかに、募集の取扱いの意味を誤解しています。

この金商法(金商業等府令)の混乱は、「取引日記帳」の作成にも影響を及ぼしてきます。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。現在、JSL行政書士事務所代表。コンプライアンス・リスク管理コンサルタントとして、上場会社、が外資系企業など多数の金融商品取引業者の顧問に就任。

JSL行政書士事務所は、100社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

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