ご質問への回答1


面白い質問を受けたので紹介します。

<質問>
不動産信託受益権の取引において、委託者兼当初受益者が発行者だった場合で、自社(二種業者A)は発行者の媒介者であり、譲受人の媒介者(二種業者B)は別の会社だった場合、二種業者Aは譲受人に対し、契約締結前交付書面を交付する義務があるのか。

<用語の整理>
まず、用語の整理をすると、「媒介」という用語は、今回の質問のように「新たに発行される有価証券」の取引には使用できません。不動産信託受益権の取引は、現物不動産取引とは違うのです。

二種業者Aの行為は、発行者のために取得勧誘を行う私募(又は募集)の取扱いです。では、二種業者Bの行為は何か?

<金融商品取引業は限定列挙>
金商法第2条第8項に規定する金商業は限定列挙です。限定列挙された行為のうち、有価証券の発行に関する行為は、自己募集(自己私募)と募集(私募)の取扱いだけです。

二種業者Aの行為も、二種業者Bの行為も自己募集ではないことは間違いありません。したがって、二種業者Aの行為は募集の取扱いであり、二種業者Bの行為も、同じく、募集の取扱い以外にあり得ないのです。疑問の余地がありません。

募集の取扱いとは、発行者のために行う金商業者による投資家に対する取得勧誘行為です。だから、二種業者Bは譲受人から手数料をもらったとしても、発行者のために金商業を行っていることになります。「感覚と合わない・・・」としても、理詰めで考えれば結論は一つです。

<事業報告書>
契約締結前交付書面について回答する前に、事業報告書の注意事項について触れておきます。

二種業者Bの行為は、募集の取扱いです。私は、事業報告書の記載事項に明るくありませんが、募集の取扱いの件数を書く欄があれば、二種業者Bは、事業報告書に募集の取扱い件数を1件記載しなければなりません。


間違っても、二種業者Bは、売買の媒介の件数に1件を記録してはダメです。

<募集の取扱い契約>
「でも、発行者と二種業者Bとの間は、募集の取扱い契約を締結していないけど」

二種業者Bの行為は、理論的に、募集の取扱い以外はあり得ませんから(勧誘行為が発生しているので金商業ではないという解釈はできません)、発行者と譲受人との間で不動産信託譲渡契約が成立したときまでに発行者と二種業者Bとの間には募集の取扱い契約が成立していたと整理する必要があります。

<契約締結前交付書面>
では、誰が、譲受人に契約締結前交付書面を提供しなければならないのか。直感的に、二種業者Bは提供義務がありそうです。実際、二種業者Bは提供義務があります。

問題は、譲受人と何らの関係もない二種業者Aです。

実務では、二種業者Bが提供する契約締結前交付書面をAとBの連名にする事例が散見されます。これは、パブリックコメント回答289頁88の影響だと思います。でも、88は、金商業者のために金商業者が顧客に対して契約締結前交付書面を提供する場合を想定した回答です。

では、二種業者Aは、別途、契約締結前交付書面を作成し、見知らぬ譲受人に提供しなければならないのか。

二種業者Aは、契約締結前交付書面を作成する義務も(結果として当然ですが)提供する義務もありません。なぜなら、二種業者Aは、一切取得勧誘を行っていないからです。取得勧誘を行っていない以上、二種業者Aに契約締結前交付書面の提供義務はありません。

もし、ここで「いや、ある」という一見保守的な対応が正しいとすれば、契約締結前交付書面を提供すると、自動的に二種業者Aに説明義務が生じることになります。また、二種業者でない匿名組合契約の営業者が取得勧誘行為の全てを二種業者に委託した場合には当該営業者は二種登録が不要であるというパブリックコメント回答との間に矛盾が生じます。

したがって、二種業者Aは契約締結前交付書面を交付する義務はないことになります。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、200社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

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