ご質問への回答3


面白い質問を受けたので共有します。

不動産の所有者(A)が第三者(B)に不動産を譲渡します。Bは、当該不動産を信託財産とする自己信託を宣言し、複数の投資家に不動産信託受益権を譲渡します。(投信法上の問題はなし)

Bが不動産信託受益権を全部譲渡できなかった場合、残部をAが取得するとBと約束します。

Aの行為は、有価証券の引受け(残額引受け)になるかという質問です。

<有価証券の引受け>
有価証券の引受けは、金商法で第一種金融商品取引業です。引受けとは何か。定義によると、次の2つの行為が有価証券の引受けです。

1 募集、私募、売出しに際し、有価証券を取得させるために取得する行為(買取引受け)

2 募集、私募、売出しに際し、有価証券を取得するものがいなかった場合に残部を取得することを約束する行為(残額引受け)

条文を読むと、質問のAの約束はどうやら有価証券の引受けのようです。実際、顧客についている弁護士は引受けであると主張し、引受けに見えないように小細工をするために躍起です。

<有価証券の引受けはなぜ一種業務なのか>
有価証券の引受けは金商法施行直前の証取法において、登録業務ではなく認可業務でした。証券会社といえども認可を受けなければ有価証券の引受けはできなかったわけです。

さらに、平成10年に施行された金融システム改革法以前の証取法では免許業務です。もっとも、当時は他の業務も免許業務でしたが、金融システム改革法(日本版ビックバン)後においてさえも、他の業務は登録制に変更されたにもかかわらず、引受けは認可業務に位置付けられたのです。

金商法では当然、有価証券の引受けは認可業務として残ると思われていましたが、引受けも登録制度に移行しました。

ただし、次の2つの条件が付いています。

1 有価証券の引受けは、強力なリスク管理体制が求められる一種業務を行う者に限ってできる

2 一種業務を行う者であっても、資本金が5億円以上ある者に限ってできる

有価証券の引受けに対し、特別な要件が求められる理由はなぜでしょうか。

有価証券の引受けは、発行者(の発行する有価証券)のリスクを全面的に引き受ける行為だからです。リスクが高く、金商業者の経営の健全化、ひいては投資家保護を脅かすので、有価証券の引受けには特別な要件が求められているわけです。

<回答>
話を質問の事例に戻しましょう。

Bが投資家に信託受益権を譲渡する行為は、委託者権当初受益者であり、委託者のみに指図権限があるため、募集又は私募です(前提)。Aの約束は形式上残額引受けです。

ただし、Aは発行者の発行する有価証券のリスクを引き受けているでしょうか。もともと、信託財産である不動産はAが所有していたものです。形を変えて戻ってきただけであって、Aは新たなリスクを引き受けていません。

したがって、Aの約束は、有価証券の引受けではないのです。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

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川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、200社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

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