募集の取扱いと売買の媒介の違い


あまりにも間違える人が多いので、今回は、金商法の基礎講座です。

「募集の取扱い」と「売買の媒介」の違いがわかっていない、このために、作成すべき法定帳簿を間違える事例を見ることが多過ぎるくらい多いです。感覚では、日系証券会社を除き、8割以上の金商業者がわかっていません。

両者は、似ても似つかいないまったく異なる行為です。

<募集>
募集と私募は、基本的に人数(属性)が違うだけで本質は同じですので、ここではまとめて「募集」といいます。

募集というと、日常用語では何を指すことが多いでしょうか?おそらく、リクルートにおける「人材募集」でしょう。一般に、人を集めることを「募集」といいます。

金商法も同じです。募集(金商法第2条第3項)とは、有価証券(信託受益権や出資持分を含む)の発行者が、人材(投資者)を集める行為のことです。人を集めた結果、有価証券が取得されたかどうかは関係ありません。金商法は、募集の結果、つまり、取得されたかどうかに興味がないのです。金商法が興味があるのは、人材(投資者)募集行為そのものです。

<募集の取扱い>
リクルートの世界では、事業者が人材を募集する際、事業者のために、人材募集を代行する人材紹介業者がいます。

金商法でも同じ。発行者が人材(投資者)を募集する際、発行者のために、人材募集を代行する人材紹介業者がいます。これが、金商業者です。

発行者のために、人材(投資者)募集を代行する行為を「募集の取扱い」(金商法第2条第8項第9号)といいます。人材を集める行為ですから、モノ(有価証券)はありません。

ここは重要です。募集(発行者の行為)や募集の取扱い(金商業者の行為)においては、モノ(有価証券)がないのです。あるのは、発行者と募集される人材(投資者)というヒト(自然人・法人)だけです。

金商法は、モノがない状態を、(わかりにくく)「新たに発行される有価証券」という言い方をしますが、新たに発行される有価証券とは、つまり、まだ発行されていないのですから、モノが存在しないのです。

<売買の媒介>
売買の媒介は違います。売買の媒介は、人材募集行為ではなく、売買の成立に尽力する行為です。モノ(有価証券)の売買の成立に尽力する行為ですから、モノがあるんです。

金商法は、モノがある状態を、(わかりにくく)「既に発行された有価証券」という言い方をしますが、既に発行された有価証券とは、つまり、既にあるのですから、モノが存在するのです。

募集の取扱いとは、モノがまだないときに、発行者のために人材(投資者)募集を代行する行為であるのに対して、売買の媒介とは、モノが既にあるときに、売買の成立に尽力する行為だって、両者は、似ても似つかいないまったく違う行為なのです。

<余談>
先日、所有していた不動産を売却したのですが、媒介を依頼した不動産会社から「媒介は売買が成立しないと成立しないので、媒介手数料は売買が成立しないと頂くことが法律上できません」と言われました。

不動産の法律には疎いのでわかりませんが、金商法から見ると、「何をとぼけたことを言っているのか、この人は」という感じです。

金商法において、有価証券の売買の媒介とは、売買の成立に「尽力」する行為であって、売買が成立したかどうかは関係ありません。金商法は媒介行為(尽力行為)の結果には興味がないのです。

だから、有価証券の媒介手数料は、売買が成立しようがしまいが、(現実的には難しいでしょうが)金商業者に支払われてしかるべきなのです。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、100社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

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JSL行政書士事務所代表
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