検査手法


証券取引等監視委員会の優れた検査手法の一つを紹介します。

題材として、もう「時効」だと思うので、ある証券会社が証券取引等監視員会から「損失補てん」と指摘された事例を取り上げます。

<損失補てん>
損失補てんには、次の3つの種類があり、いずれか一つに違反しただけで、刑事罰の対象になります。

1 有価証券の売買やデリバティブ取引に関して、顧客に損失が生じたときには、損失を補てんすることを事前に約束する行為

2 有価証券の売買やデリバティブ取引に関して、顧客に生じた損失を補てんすることを約束する行為

3 有価証券の売買やデリバティブ取引に関して、顧客に生じた損失を補てんする行為

<実際にあった事例>
冒頭に紹介した事例の概要は次の通りです。

1 証券会社A(被検査金商業者)が、別の証券会社Bに仕組債を販売した際(卸販売)、もし、売れ残ったら販売価格(卸値)で買い戻すと約束した

2 証券会社Bが、証券会社Aから仕入れた仕組債を証券会社Bの顧客に販売したところ、大半が売れ残ってしまったので、証券会社Aに卸値で売却した(証券会社Aから見ると、卸値で買い戻した)

3 証券会社Aが、証券会社Bから仕組債を卸値で買い戻したとき、仕組債の価格は下落していた(ボラティリティーが高くなり、組み入れたデリバティブ取引の評価額が上がり、債券価値が下がっていた)

証券会社Aの3つの行為のうち、「1」が「損失補てんの事前の約束」と認定され、証券会社Aは行政処分(業務改善命令)を受けました。

<優れた検査手法>
証券取引等監視委員会は、証券会社Aの損失補てん行為を、どのような検査手法を用いて発見したでしょうか?

営業員のメールのチェック?
役職員へのヒアリング?
注文伝票のチェック?

正解は「顧客一覧表(収益上位10社)」です。

これは、何かと言うと、読んで字のごとく、金商業者の顧客を収益順(上位10社まで)に並べた顧客一覧表です。

証券会社Aの顧客一覧表(収益上位10社)の中で、証券会社Bはダントツの「1位」でした。証券会社Aにとって、証券会社Bは群を抜いたお得意様だったということです。

そこで、証券取引等監視委員会の検査官は、証券会社Aが証券会社Bのために何か便宜を図っていないかどうかを発見するために、証券会社Aの取引のうち、証券会社Bとの取引を徹底的に調べたわけです。

私がコンプライアンス部門の責任者だったとき、他にも、事件の真相に迫るために、一見何の関係もない質問を金商業者の役職員に投げかけて逃げ場を封じ込めてから追い詰めるという手法も体験しました。(つまり、私が追いつめられた。)

ベテランの検査官は、検査手法において、「職人芸」の域に達しています。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、200社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

メールマガジン:、読者数国内最多の金融商品取引法専門メールマガジンを金融商品取引業者と金融当局に配信中

JSL行政書士事務所代表
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階
電話:03-5533-8785
http://office-jsl.com/

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