投資運用業に関する特則3


運用業者が、取引に基づく価格等の変動を利用して、自己又は権利者以外の第三者の利益を図る目的をもって、正当な根拠のない取引を行うことを内容とした運用を行うこと禁止されています。

スキャルピングと呼ばれる行為で(短期売買の意味ではありません)、私が、AMのコンプライアンス責任者だった投資顧問業法時代には、スキャルピングの未然防止のために、AMは助言や運用に係る有価証券と同一の有価証券に関する自己取引状況を6か月に1回以上顧客に報告していましたが(コンプライアンス担当者の重要な仕事の一つだった)、金商法には、この義務がありません。

コンプライアンス担当者の仕事は、当然ですが、時代とともに変化します。

閑話休題。

<権利者の利益を害する条件による取引の禁止>
通常の取引の条件と異なる条件で、かつ、権利者の利益を害することとなる条件での取引を行うことを内容とした運用を行うことは、一律、禁止されています。

「一律」と言ったのは、権利者の同意を得ても免責されないという意味です。

運用業者に善管注意義務がある以上、当然の規定です。

この規定は、「かつ」なので、通常の取引の条件と異なる条件であっても、権利者の利益を害することのない条件での取引を行うことは、この条文では禁止されません。

パブリックコメントに「不動産信託受益権の場合は、個別性があるため、何が権利者の利益を害することとなる取引に該当するのか明確ではない」という趣旨のものがあります。

このようなパブリックコメントは、金商法の規定は、上場株券を前提にしているという思い込みに基づくもので、例えば、社債であっても、非上場株券であっても個別性があり、逆に、個別性がない有価証券は、上場株券や一部の投資信託しかなく、上場株券や一部の投資信託がむしろ例外という点を忘れているものです。

不動産信託受益権の取引であっても、仮に、権利者の利益を害することとなる条件で取引を行うことになったとしても、通常の取引の条件と異なる条件で取引をしなければ、少なくても、この規定には違反しません。

<運用業務に係る情報を利用した自己取引の禁止>
運用業務に係る情報を利用して、自己の計算において有価証券の取引を行うことも、一律、禁止されています。利益相反を防止する趣旨で、このような取引は、自己又は権利者以外の第三者の利益を図る目的でなかったとしても、禁止です。

この条文は、典型的には、上場株券の売買に適用される規定です。運用業務で上場株券を買い付けるという情報を利用して、自己の計算で、同一株券を買い付けておき、運用資産で買い付けて株価が上昇したときに、売り抜ける行為が禁止されます。

実際には、「目的」も「結果」も、この条文が適用されるかどうかには関係がないため、利益を得る目的がなくても、運用業務で上場株券を買い付けるという情報を利用して、自己の計算で、同一株券を買い付ければ、法令違反です。

ただし、運用業務に係る情報を利用しての「利用して」の意味が、金融庁の「並行投資」に関するパブリックコメントの回答も手伝って、かなり限定的に解釈される傾向にあり、この条文は、必ずしも、機能していません。

なお、「自己取引禁止規定の例外や運用財産相互間取引禁止規定の例外には、この条文が適用されないことを明確にして欲しい」というパブリックコメントがありますが、これは、混乱で、金融庁の回答の通り、この条文は適用されません。

また、当然のことですが、この条文と、運用業務に係る情報を利用した有価証券取引の委託の勧誘を禁止する規定(金商法第44条第1号)とは、まったく異なる規定です。

文言上似たような条文が複数あるため、混乱しないようにしましょう。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。現在、JSL行政書士事務所代表。多数の金融商品取引業者の顧問に就任。

JSL行政書士事務所は、100社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

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JSL行政書士事務所代表
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