平成21年改正金融商品取引法(1)


明けましておめでとうございます。今年も「これでわかった!金融商品取引法」をよろしくお願いいたします。

さて、昨年12月28日に金融庁が平成21年改正金商法関連の政令・内閣府令のパブリックコメントの回答を公表し、内閣府令がすべて公布されましたので、内容が確定しました。案の段階から相当に変わっていたこと、新しい解釈をパブリックコメントの回答で示したことから、証券会社の実務への影響は、想定していた以上に大きくなっています。今日から、数回に分けて、内容が確定した平成21年改正金商法のうち、売出し関連についてコメントしていきます。なお、施行は4月1日です。

<現行制度の復習>
現行制度がわからないと改正された点や背景がわかりませんので、最初に現行制度の復習をしておきます。

<発行市場>
国内で発行される有価証券の取引市場を発行市場とか、英語でプライマリー市場と呼びますが、まず、発行市場の特徴を復習しておきましょう。

国内における有価証券の発行方式には、募集か私募のいずれかしかありません。募集とは、発行時に、不特定多数の投資家に取得の申込みの勧誘をする行為です。一方の私募は、多数だけれども特定か、不特定だけれども少数の投資家に取得の申込みの勧誘をする行為です。

多数だけれども特定の投資家に行う私募は、適格機関投資家私募、いわゆる「プロ私募」です。相手が適格機関投資家であれば、数の制限なく、取得勧誘をすることができます。次に、ある程度多数だけれども特定の投資家に行う私募として、特定投資家のみを対象に取得勧誘を行う「特定投資家私募」があります。最後に、不特定だけれども50名未満という少数の投資家のみを対象に取得勧誘を行う「少人数私募」があります。

ここが実務的には非常に大切な点ですが、国内で発行される有価証券は、「募集」「プロ私募」「特定投資家私募」「少人数私募」の4種類しかなく、例外は一切ないということを忘れないようにしましょう。すべての国内発行有価証券は、必ず、4つのいずれかの方法で発行されます。そして、4つの発行方法の違いによって、発行後の有価証券の「運命」が決まってしまいます。

普段の実務の中で、この点を意識している方は少ないと思うのですが、この点を強く意識しないと、今回の改正の要点がまったくわからなくなります。パブリックコメント(質問)の中には、この点を意識していないために、トンチンカンなものが散見されました。

<流通市場>
日本では、有価証券は払い込みがあって初めて発行されたことになります。他国では異なる取扱いの例が見られますが、国内では有価証券が発行される限り、払い込みなくして発行なしです。払い込みには、ゼロ円という払い込みも含みます。

発行後の有価証券の取引市場は、流通市場とか、セカンダリー市場と呼ばれます。現在、国内で取引きされる有価証券の流通市場における売付方式は、「売出し」「売買」「海外発行少人数向け勧誘」のいずれかしか存在しません。例外はありません。

売出しとは、既に発行された有価証券(既発証券)を、50名以上の者を相手として、均一の条件で売付け勧誘等を行うことというのが、現行の定義です。以前にも書きましたように、平成21年改正金商法で、このうち「均一の条件」が削除されたことにより、流通市場の法制度が根本的に変わることになりました。

売買は、売出しに該当しない売付け勧誘等や単なる買い付けのことを言います。東京証券取引所などの取引所で株券を買ったり売ったりする行為が、売買の典型例です。

海外発行証券少人数向け勧誘とは、海外で発行されたために、国内で発行された場合の4つのいずれにも該当せずに発行された有価証券の勧誘のことです。海外発行少人数向け勧誘は、50名未満の投資家を相手方として行われます。私募と異なり、相手が証券会社であっても、その他の適格機関投資家であっても、とにかく、50名未満にしか売付け勧誘等をすることが禁止されます。外国で発行された有価証券であっても50名以上に均一の条件で売付け勧誘等を行うと、売出しになります。

<募集と売出しの共通点>
現行の制度上、募集と売出しの共通点は、発行者が「有価証券届出書」を財務局に提出し、「目論見書」を投資家に交付する点です。有価証券届出書の他に、発行登録制度という方式がありますが、いずれにしても、発行者の情報である「企業情報」と対象となる有価証券の情報である「証券情報」が、すべての国民に開示されます。金融商品取引法で定められた開示方法なので、「法定開示」と呼ばれることがありますが、逆にいうと、募集と売出し以外の取引きでは、あらゆる取引において、法定開示は要求されません。改正金商法を理解するために、この点も強く意識するようにしましょう。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

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プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。現在、JSL行政書士事務所代表。コンプライアンス・リスク管理コンサルタントとして、上場会社、が外資系企業など多数の金融商品取引業者の顧問に就任。

JSL行政書士事務所は、100社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

メールマガジン:、読者数国内最多の金融商品取引法専門メールマガジンを金融商品取引業者と金融当局に配信中

JSL行政書士事務所
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