アーツ証券の登録取消し処分

2016年1月29日、証券取引等監視委員会は、アーツ証券が複数の法令違反をしていたとして、金融庁にアーツ証券に対し行政処分を行うように勧告し、金融庁は、同日、アーツ証券に対して登録取消し処分を行いました。

法令違反の内容や事件の概要は、新聞で報道されていますので、ここでは、報道とは別の視点から、事件を観察することにします。

<虚偽告知>
証券取引等監視委員会が公表している事実関係の(1)アに、同社社長は業務に関し、発行会社3社の財務状況(診療報酬債権等を取得できていない状況等)の実態を認識したにもかかわらず、これを秘匿・隠蔽し、顧客に社債を販売したとあります。

<不正・不当行為>
また、(1)イにおいても、同社社長は業務に関し、関連販売証券会社(複数の地場証券)に対し、発行会社3社の財務状況の実態を秘匿・隠蔽し、虚偽の決算報告書と運用実績報告書を送付し、社債の販売を継続させたとあります。

<誤解を生ぜしめる表示>
更に、(2)アにおいて、同社社長はWBL社発行社債の財務状況(売掛債権を取得できていない状況等)を認識していたにもかかわらず、顧客に問題が生じていないとの誤解を与える表示をしたとあり、(2)イにおいて、同社は、LLCの実態を把握していなかったにもかかわらず、同社が把握しているかのような誤解を与える表示をしたとあります。

<法令違反は2つ>
なお、虚偽告知と誤解を生ぜしめる表示は、金商業者の「禁止行為」(法令違反)ですが、不正・不当行為は禁止行為(法令違反)ではなく行政処分の根拠です。これは、発行会社3社の財務状況の隠ぺいの被害者とLLCの実態把握をしていたかのように誤解させた被害者は「顧客」である一方、決算報告書等の送付による被害者は関連販売証券会社であるため、前者は一般に顧客保護を規定した禁止行為で取り締まることが可能であったが、後者は被害者が証券会社であるため禁止行為の適用ができなかったことが原因です。

<登録取消しの根拠>
注目すべきは、なぜ、金融庁の行政処分が「登録取消し」という最悪の処分であったかです。

虚偽告知、不正・不当行為、誤解を生ぜしめる表示を行ったのは、一部を除き、同社社長であって、公表を読む限り、同社の組織的な法令違反ではありません。

同社社長だけが法令違反行為を行った者であるならば、「役員解任命令」(金商法第52条第2項)を行うだけでも良かったのではないかという判断も可能です。おそらく、被害者が多数に及んだため、役員解任命令ではなく登録取消し処分としたのだと推測されますが、今回の行政処分を一般化すると、会社代表者の法令違反や不正・不当行為は、金商業者の登録取消しになり得るということです。ここは、極めて重要な示唆です。

また、報道は、虚偽告知、不正・不当行為、誤解を生ぜしめる表示に焦点を当てているようですが、本来、最も注目すべきは、証券取引等監視委員会が公表している参考資料のうち「発行会社3社の資金の収支概要」です。

同資料について、証券取引等監視委員会は、「本資料は、説明のために簡略化しており、一部、省略やデフォルメされているところがある」と注意書きを付していることから、実際のことはわかりませんが、平成27年10月末現在の同資料を見る限りにおいては、次のことが言えます。

支出合計に占める診療報酬債権等の残高(最大の支出であるべき項目)は、支出合計の9.31%でしかありません。一方、同社に対する販売手数料と業務委託手数料が支出合計に占める割合は、13.76%です。さらに、オプティファクターと関連会社であるエム・アイ・ファシリティズに対する業務委託報酬の合計が支出合計に占める割合は8.50%であり、同社、オプティファクター、エム・アイ・ファシリティズが得た報酬合計が支出合計に占める割合は、22.26%です。

金商業者の報酬には法令上上限がないため、社債で調達した金銭の22.26%を報酬として受領していたことが問題だと言っているわけではなく、また、繰り返しになりますが、本当にそうであったかどうかは、同資料が「省略やデフォルメされている」ため、誰にもわかりません。さらに、この数字は平成27年10月末日を輪切りしたものであり、前後の状況はわかりませんが、証券取引等監視委員会の公表資料からは以上の数字が導き出され、この点が、本来、最も注目されるべき点です。

今回の証券化商品は「社債」(一項有証)だったため、金商業者である同社は、報酬を開示する必要がありませんでしたが、仮にこれを全く同じ商品性を有する「ファンド」(二項有証)で組成した場合、いわゆる事業型ファンドとなるため、金商業者は報酬を開示する必要があります。(金商業等府令第92条の2第1項第4号イ)

業者の報酬に関する私見を述べると、金融庁は金商業等府令を即刻改正し、ファンドの規制に合わせてこの差を解消すべきです。



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川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、200社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

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