検査とコンプライアンス・オフィサー2


コンプライアンス担当者の私にとって、当時の検査で大変だったことの一つは、ランダムに検査官からヒアリングを受け、二段票(現在の質問票にあたる)をもらってきた役職員が、回答の内容の相談に来ることでした。

現在の検査では質問票の数は限られているが、当時の二段票は、臨店検査期間中に50以上でるのが普通でした。100に達するケースもありました。二段票の回答は、受け取った者が書けばいいのですが、検査忌避になったり、会社に迷惑をかけることになったりすることを恐れ、役職員は、私に回答を求めてきました。

私は、実は、転職組で、入社1年目でした。当然、過去の細かいところまでは知りません。でも、これは今でも変わらないと思いますが、「私は新任なので過去のことはわかりません」は、当然のことながら、検査官には通用しません。個人事業主じゃないんだから、会社である以上、継続性が求められます。「新任」という言い訳は社内では通用しますが、検査では通用しないのです。

二段票が100あって、二段票を受け取った役職員全員から回答を求められると、私の時間は何時間あっても足りません。

当時の私の日課は、朝9時から、金融庁(証券検査)のナンバー2の検査官と打ち合わせをした後、銀行と証券の検査官からヒアリングを受け、回答しつつ、質問票ももらい、回答を書くというものでした。ところが、私がもらった質問票の回答を書く暇もなく、役職員が、自分がもらった質問票の回答を求めて私のデスクにやってきます。これをさばきつつ、検査官のヒアリングを受けているのですから、「他人の世話」が終わったころには、毎日、21時を過ぎていました。

役職員がランダムにヒアリングを受けて回答していると、誰が何を聞かれてなんと回答したかを、会社が把握できなくなります。すると、同じ質問に対して違う回答を検査官にしてしまい、検査官を混乱させてしまうおそれがあります。検査官を混乱させる行為は、検査忌避です。

事実、私は、他の役職員の回答と私の回答が違ったため、何度も検査忌避を疑われました。お互いウソを言っているわけではないのですが、一つの事象を、右から見たときと、左から見たときの回答は違ってくることがあり、だから、誰かが、全役職員のヒアリングの状況を押さえておかなければなりません。

方法としては2つあります。一つは、すべての役職員のヒアリングにコンプライアンス担当者が同席して、書記をすることです。これは、主任検査官が許せば、積極的に行った方が良いです。もう一つは、検査官が毎日オフィスを出た後に、部長職以上が全員集まってミーティングを行い、誰が何を質問されて、どう回答したかを、共有することです。万一、ミーティングで回答に矛盾が発見されたら、翌日、すぐに主任検査官に前言撤回(修正)を求めるのです。

話を臨店検査に戻すと、この間、日常業務はどうしていたか。当然、ストップです。私は、この2か月に及んだ臨店検査中に起こったことは、社内のことのみならず、世の中のことを知りません。ほぼ24時間検査対応なので、検査のこと以外の情報を受け止めるだけの時間的な余裕も、精神的な余裕もなかったからです。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、200社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

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JSL行政書士事務所代表
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階
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