検査とコンプライアンス・オフィサー3


「検査忌避」はいたるところで指摘され、件名が「検査忌避」の二段票、三段票(現在の整理表に相当)がかなり増えました。

検査忌避の範囲は相当広いです。例えば、この検査では、営業部長が風邪をひいて1日会社を休んだことについて、検査忌避が問われました。検査忌避でない証拠に、診断書の提出を求められた営業部長でしたが、自宅にいたため、診断書はなく、結局、自宅で寝込んでいたことを家族が証明することになりました。

現在の検査では、こんなことで検査忌避が問われるとは思えませんが、気を付けないといけないことは、検査の進行を妨げる行為はすべて検査忌避なのだから、例えば、「始末書」(※)の提出を求められたとき、「法令上の義務じゃないじゃないか」と抵抗すれば、検査忌避と問われる可能性が高いです。

(※)昔の検査では、法令違反が見つかると、「犯人」はその場で「反省しているので、二度としません」と書いた「始末書」と書いて、提出を求められました。私も書いたことがあります。現在ではなくなったと思っていたのですが、最近、まだあると聞かされました。

本質的な問題としては、兼業規制が問題になりました。兼業規制とは、一種業者、運用業者にかかる規制で、業務は、金商業である「本来業務」、金商業に付随する業務である「付随業務」、届出書の提出が求められる「届出業務」、事前承認が求められる「承認業務」の4つのいずれかに該当しなければならないという規制です。(※)

(※)この規制は、1998年の規制緩和に伴い整備された規制で、規制緩和前、証券会社が他業を営むことは原則禁止でしたが(他業禁止)、規制緩和後、他業自由が認められたことから、証券会社の財務の健全性や投資者保護の観点から整備されたものです。

兼業規制で問題となったのは、承認が必要な業務が承認を受けないで行われていたというものでした。正確にいうと、承認は受けていたんだけれども、受ける前に2件、既に行っていたことが発見されたのです。

当時の私は、相当甘かったので、(1)過去のことであり、現在は既に承認を得ていること、(2)たった2件であることから、指摘を受けない、受けても行政処分に至らないと判断しました。結果的に、この件で、営業停止命令(現在でいう業務停止命令)を受けることになります。

忘れてはならいことは、現在改善されていることをもって、過去の法令違反は治癒されないということです。検査は過去のことを見るのであって、現在はどうであるかは、どうでもいい話です。

ましてや、「現在のコンプライアンス体制は不十分だけれども、コンプライアンス担当者の増員を含む改善計画があります」と胸を張る金商業者いますが、少なくても、検査においては、将来の計画はどうでもいい話なのです。

これには理由があって、臨店検査に来ている検査官の仕事は、過去に起きたことを正確に描写して、バックに伝達することにあるからです。レントゲン写真に例えると、検査官は写真を撮影する人です。写真を見て、審査・判断するのはバックです。だから、過去に法令違反があったのに、「現在は改善されているから良しとする」なんてことを検査官がしてしまっては、過去を正確に描写してバックに伝達する役目を放棄していることになり、検査官の職務怠慢になってしまいます。

「確かに過去には法令違反があったけれども、現在は改善されているから大丈夫」と考える金商業者が未だにかなり多いですが、大丈夫でも何でもありません。第一、過去に法令違反があったことを認識しているのなら、事故届けを行う義務があるわけで、単に改善して喜んでいるのでは、過去の法令違反に加え、事故届けを行っていないという法令違反が増えていて、事態は悪化しています。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。現在、JSL行政書士事務所代表。コンプライアンス・リスク管理コンサルタントとして、上場会社、が外資系企業など多数の金融商品取引業者の顧問に就任。

JSL行政書士事務所は、100社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

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