検査とコンプライアンス・オフィサー4


当時の検査では、現在でいう「質問票」や「整理票」を使っていたのは、金融庁のみで、証券取引等監視委員会は、特に書面のやり取りはありませんでした。

検査も進んでいき、三段票(整理票に相当)の数も50を超えてきたころの私は、毎晩、明け方4時まで検査対応のために一人で会社に残り、タクシーで帰宅して服を着替え、目覚まし時計を2時間後にセットして、壁にもたれて座って寝るという生活を続けていました。

ベッドに入らなかった理由は、ベッドに入ってしまうと寝込んでしまい、起きられなくなるかもしれないと思ったからです。でも、余程眠かったと見えて、壁に寄りかかって寝ていたのに、目が覚めるとベッドを抱くようにして寝ている自分に気づく日もありました。

帰宅できない日もありました。このような日は、近くにあった段ボール箱を2枚拡げて、段ボールの上で仮眠をとりました。

会社では「顔色が悪いですよ」とか「寝ないと死んじゃいますよ」とか言われましたが、私の回答は、「コンプライアンス・オフィサーとして死ねるなら本望」でした。本気でそう思っていましたし、実際、気が遠くなるときもあり、死ぬのかなあと弱気になったこともありました。

ある日、会社のデスクに座っていると、突然、背中が痛くなり、動けなくなってしまいました。本当に痛くて、立つこともできません。さすがに、落ち着いたら病院に行こうと考えていたところ、秘書が「救急車を呼んだ方が早く診察してもらえますから」と言って、119番に電話をしました。

救急車が到着し、タンカーを持ってきたのですが、私は座ったまま体が動かないので、タンカーに横になれません。そこで、車いすが用意され、私は、数名で持ち上げられて、椅子から車いすに移動して、付き添いの秘書とともに、病院に搬送されました。

病院ではCTスキャン他、様々な検査をしましたが、異常は見つからず、原因不明となりました。会社に戻ろうとしましたが、秘書にとめられ、私は自宅に帰り、秘書だけ会社に戻りました。

秘書から説明を受けたのでしょう。私が自宅で横なっていると会社から電話がありました。「今日は一日安静にしていてください」と言われたので、「何かあったら行きます」と回答して眠りました。

この日、私は夜中の11時の電話で起こされました。会社からです。「重要な三段票が出ました」という連絡です。「すぐに行きます」というと、「今日は寝ていてください」と言われましたが、重要な三段票は自分で書きたかったので、タクシーにのって、会社に向かいました。

毎日歩いていた赤坂の「桜坂」を通ると、桜がライトアップされていました。見ると、葉桜です。毎日歩いていたのに、桜のつぼみにも、桜が咲いたことにも、桜が散っていたことにも、まったく気づいていませんでした。あらためて確認すると、2月に始まった臨店検査でしたが、既に4月に入っていました。

会社につくと、確かに重要な三段票が出ていました。締切りが翌日だったので、さっそく、回答を書き始めました。

現在の整理票では、意見相違でもない限り、「左記の通りです」と書くことが習慣化されていますが、当時は、こちら側のコメントをすることが習わしになっていて、指摘が事実であれば、発生原因から再発防止策まで書くという大変な作業でした。

日付も変わり、いったん自宅に戻った私は、シャワーを浴びて再び会社に戻りました。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。現在、JSL行政書士事務所代表。多数の金融商品取引業者の顧問に就任。

JSL行政書士事務所は、100社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

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JSL行政書士事務所代表
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