内部監査の実務1


4月27日発行のメールマガジンの抜粋です。


このメールマガジンの読者の多くは、金商業者のコンプライアンス担当者ですが、今回は、シリーズで「内部監査」を取り上げることにします。ですから、可能であれば、内部監査部門の方に、転送して頂ければと思います。

まず、歴史的な話も含めた、内部監査の位置づけですが、内部監査とは、元々、Internal Auditという海外の機能の輸入品です。国内において、必要性から、自然発生的に生まれたわけではなく、金商業者にとっては、いわば、人工的に作られたものです。

「ベアリングス事件」という事件があります。金商業者が必ず研究しなければならない事件の一つですが、英国のベアリングス銀行が、ニック・リーソンという一人のトレーダーによって、破産に追い込まれた事件です。映画にもなっていますので、事件の全貌を簡単に知るためには、映画を観るのが良いと思います。

「大和銀行ニューヨーク支店巨額損失事件」という事件があります。これも、金商業者であれば、必ず研究しなければならない事件で、井口俊英が米国国債の簿外取引等で、旧大和銀行に大損をもたらすとともに、大和銀行が当時の米国刑法犯における史上最大の罰金刑に課された事件です。同氏は、当時の模様を「告白」という小説にまとめ、出版していますので、小説を読むことをお勧めします。(自己弁護に終始している感がありますが)

いずれの事件も、社内プロセスに欠陥があったことが原因で発生しているため、「プロセスチェック」という内部監査機能の一つが有効に働いていれば、避けられたかもしれない事件です。このような背景から、海外の金融機関においては、内部監査の権限は大きく、CEOからも独立し、CEOの権限を上回る権限が与えられていたりします。

日本においては、「役職員は不正をしない」という文化的神話があるため、内部監査が発達しないのだと思いますが、ベアリングス事件や大和銀行事件ほどの事件ではなくても、違法・不公正取引がゼロであるという前提に立つことはリスク管理の甘さにつながり、だから、すべての金商業者に内部監査が義務付けられているのだと考えます。

金商業者の組織図を見ると、内部監査は代表取締役直轄であったり、監査役直轄であったりしますが、海外においては、CEOからも独立しているため(CEOが不正を働くかもしれないから)、組織図上、CEO直結ということはなく、誰からも干渉を受けない、完全に独立した機関として存在している例もあることから、輸入をした日本においても、本来、高い独立性が求められる機関です。

金商法施行当時は、内部監査部門が他の部門、例えばコンプライアンス部門を兼任している例が見られましたが、現在では完全に少数派で、私が金商法施行当時から主張していたように、金融庁も内部監査部門の独立性を強く求めていることからも、金商業者における内部監査は独立した存在になっていて、証券取引等監視委員会の検査においても、内部監査が他の部門を兼任していると指摘事項として挙げる事例も見られます。

「内部監査部門は仕事ない」と誤解している金商業者も少なくありません。金融庁が監督指針で指摘しているように、内部監査が適切に機能しているかどうかは、行政処分の軽減事由にもなり、「内部監査部門はすべての業務を監査対象とする」ことから、適切に機能するためには、1年中稼働している必要があり、内部監査部門に仕事がないなんてことは、私の金商業者における経験上もありません。

とは言っても、「内部監査は具体的に何をすれば良いのかわからない」とか「内部監査は1年に1回実施すれば良い(から仕事がない)」とか、中には「登録以来、内部監査を実施したことがない」という金商業者がいることも事実ですから、金商業者の機能の中でも、本来、(コンプライアンス部門の不正や機能不全を監査する立場だから)コンプライアンス部門よりも重要であるはずの内部監査部門が、ある意味、軽視される傾向にあるようです。

ちなみに、財務局が公表している業務方法書のサンプルに「少なくとも1年に1度は内部監査を実施」とありますが、1年に1回実施するのは、伝統的な銀行における社内検査であって、このサンプルは、内部監査と社内検査を混同しています。

なお、内部監査を実施していない金商業者がいると書きましたが、内部監査の未実施は、証券取引等監視委員会の指摘事項にもなっているので、悠長に構えているなんてことはあり得ません。

内部監査部門は具体的に何をすれば良いのか、何をしなければならないのかは、後日話すとして、金商業者においては、なぜか、法令等遵守に関する事項は何でもかんでもコンプライアンス部門が責任を負っていますが、業務の日常的なモニタリングを実施することや、役職員からの法令等に関する相談を受けたり、逆に役職員に法令等に関する情報を提供したり(社内研修など)をすることが、コンプライアンス部門の仕事です。

金融庁が監督指針で指摘しているように、例えば、顧客情報管理の適切性、取引時確認の実効性、事務リスク管理態勢、法定帳簿の作成・管理状況など、管理体制を検証する機能は、コンプライアンス部門ではなく、内部監査部門で実施されるものです。ちなみに、3月決算の会社においては、間もなく、事業報告書の作成・提出、説明書類の公表の時期ですが、説明書類における「内部管理の状況」には、内部監査体制を記載することが、金融庁の監督指針で求められています。(それほど内部監査は内部管理体制の中で重要)

内部監査機能を外部の専門家に「依存」している金商業者を見かけることがありますが、以上の説明からわかる通り、内部監査は日常的に金商業者の管理体制を検証しなければならないことから(1年に1回でも良い社内検査と混同しないこと)、外部の専門家を「補助」として活用することはあっても、外部の専門家に依存することはできません。

実際、証券取引等監視委員会の検査においても、内部監査担当者の常勤性が求められた事例があります。繰り返しますが、金融行政の場合、「登録審査を通ったから大丈夫」という理屈は、「法制度的に通じない」ため、仮に、登録申請手続で内部監査担当者が非常勤で認められたとしても、証券取引等監視委員会の検査で覆されることはおかしなことではありません。

信じてもらえないと困るので強調しますが、金商業者は書類審査の「登録制度」という、形式上、参入障壁の低い業態であり、だから、検査で退場させることが容易な法制度に立つ業態です。実質的な審査は証券取引等監視委員会の登録事項検査で行われるということです。「登録審査を通ったのに、ダメなんてことがあるのか」と他業態出身だとわかりにくい制度かもしれませんが、私は、金融行政におけるコンプライアンス経験が日本で一番長い(古い)はずですので、「亀の甲より・・・」ということに免じて、信じて頂くほかありません。

内部監査の機能の一部を紹介すると、先日、昨年のドイツ証券に続き、クレディ・スイス証券が法人関係情報の管理不備で行政処分を受けた件で、法令違反の発生原因が「内部管理部門等の人員を削減」(証券取引等監視委員会のHPより)、つまり、コスト削減のためのコンプライアンス体制の弱体化に求められていますが、コンプライアンス体制の弱体化は内部監査で指摘されるべきであるから、ここは、内部監査がコンプライアンス体制の弱体化に対して経営者に意見具申をしなかった(できなかった)ことに求められるべきだと考えます。


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プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、200社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

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JSL行政書士事務所代表
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階
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