内部監査の実務3


5月6日のメールマガジンからの抜粋です。



前回のメールマガジンでは、金商法に絞った内部監査と言っても何から始めたらよいかわからない場合は、登録申請時に当局に提出した書類の検証から始めてはいかがかという提案をしました。

この検証を実際に行ったことがあるという金商業者は少ない、というか、私が顧問をしたり、1日監査をしたりしているクライアントの他には存在しないというのが私の印象です。

私が金商業者の顧問に就任したり、1日監査を引き受けたりするときに最初に行うのが、これです。登録申請書、人的構成に係る書面、業務方法書を金商業者から頂き、法令や実態との間にギャップがないかを検証します。ここで「法令」と言っていることに注意。「登録申請が通ったから登録しているのに、書類と法令との間にギャップがあるわけないじゃないか!」という考えは間違いです。財務局が行う審査は「登録審査」なので、登録拒否要件に該当してないことを審査するのみであり、提出された書類が法令に適合しているかを審査するわけではないからです。

条文上ですが、提出された書類と、法令や実態との間にギャップがあると、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金(若しくは併科)であり、法人なら5億円以下の罰金の対象です。ここまでいかなくても、行政処分の対象になることは、財務局の公表資料に書いてある通りです。

最初に登録申請書について。登録申請書(添付書類を含まない)の内容が誤っている金商業者は意外にいます、というか、多いです。登録申請書の作成にあたり、金商法を理解していない行政書士に依頼したり、以前のメールマガジンで指摘した「条文の斜め読み」をしていたりすることが原因です。登録申請書は、枚数も少なく、作成は簡単そうに見えますが、金商法の行為規制全体を「有機的に」理解していないと間違えます。繰り返しますが、登録申請書の内容が間違っている金商業者は多いのです。(「みんなが間違っているなら、当社が間違っていても大丈夫」なわけではないことに注意)

登録申請書の内容が間違っていたらどうするか。本来、登録申請手続時点において提出した登録申請書は、金商業者として登録を受ける前のことだから、変更届出書の提出という手続の適用はないはずですが、実務的には、金融庁から変更届出書の提出を求められます。

間違った内容によっては、事故届け(法令違反が発見された際に提出が義務付けられている届出書)になるのはまだ良い方で、大変なことになるのですが(私のクライアントで登録取消しの危機を迎え、財務局が納得するまで半年以上かかった事例があった)、間違えていたのだから、黙っていたり、ごまかしたり、弁護士と相談して勝手な理由を付けて納得したりしないで、当局に報告しなければなりません。証券取引等監視委員会の検査で見つかる方が、遥かに悪い結果になります。

経験則上、登録申請書は、悪いことは言いませんので、金商法の実務に(相当)詳しい外部の専門家に内容の検証を依頼した方が良いと考えます。

次に、人的構成に係る書面についてですが、人的構成に係る書面の内容が、実態を反映していない金商業者もいます。運用業者の場合は、むしろ、実態を反映してないことが普通です(普通だからといって放置してはいけないことは既述の通り)。特に、登録申請手続を行政書士に代行させた金商業者は要注意です。行政書士の登録実務の実態は、過去に登録を受けた他の金商業者の申請時に使った書類の焼き直し作業ですから、実態を反映していない記述になっているのが普通であるのは、当たり前の話だからです。

業務方法書についても、業務方法書が実態を反映していない事例は多いです。私が、検査対策セミナーの講師をするときに、実態を反映していない業務方法書の典型例の話をすると、必ず、焦る金商業者がいますが、焦るということは、知っていれば修正できたことの裏返しですから、焦る前に、業務方法書の内容を検証すべきだったことになります。特に、助言業者と運用業者の業務方法者は実態を反映しないことが多く、ここでも、行政書士に登録申請手続を代行させた金商業者は、要注意です。

申請手続では社内規則も提出させられるのが実務なので、登録申請書、人的構成に係る書面、業務方法書に加え、社内規則の検証も「登録申請書時に提出した書類の検証」の中で実施することになります。余談ですが、1998年の規制緩和で、登録申請時の社内規則の提出はなくなった経緯があるのですが、金商法施行で、規制緩和前に戻ってしまったのは、金融行政の一貫性を欠いています。

社内規則に関しては、登録申請時に提出した社内規則のみならず、登録後に作成した社内規則も、一緒に検証することをお勧めします。特に、平成26年改正金商法の施行日(平成27年5月29日)以降、業務を適格に実施するための社内規則の整備は法令で義務付けられていますので、各社、社内規則が増えているはずですから(増えていなかったことが検査で指摘された事例あり)、まとめて検証するのが良いと思います。

なお、「協会に加入していれば、社内規則の整備が不要」と勘違いしている金商業者がいますが、これは、協会に加入しなければ協会規則に準じた社内規則を作成しなければならない義務と、平成26年改正金商法(具体的には、金商法第35条の3並びに金商業等府令第70条の2第1項)における社内規則の作成義務とを混同した議論で誤りです。


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プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、200社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

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