不動産信託受益権はなぜ有価証券なのか


「不動産信託受益権が、有価証券なんておかしい!」という宅建業者の声を聞くことがあります。ここでは、宅建業者の声の誤解を解くとともに、不動産信託受益権の価格の問題について考察します。

金商業者が行う取引において、何をおいても重要なものは、金商法の目的が「公正な価格形成」である以上、「価格」ですから、価格の問題を考察することは、大変大きな意味があることです。

私の記憶が正しければ、もともと、信託受益権が金商法(旧証取法)で、有価証券に指定されたのは、平成4年施行の、金融システム改革法です。

現在では、すべて信託受益権が有価証券に指定されていますが、当初、有価証券に指定された信託受益権は、銀行の貸付債権信託のみでした。不良債権処理のために、貸付債権の貸主を信託銀行に固定し、経済的利益を貸付債権(信託財産)から切り離し、貸付債権から生ずる配当金と分配金の請求権を移転させる市場の整備をするために、有価証券に指定されたのが始まりです。

この「信託財産から切り離して権利だけを移転させる」こと、別の言い方をすれば、流動性の乏しい信託財産に流動性を持たせるために、市場を整備することが、信託受益権の有価証券指定の背景にあります。

だから、金商法はこう考えます。

「もし、不動産信託受益権が、金商法で有価証券指定されていなければ、不動産信託受益権の流通を規制する法律がないため、投資家が安心して取得できない、その結果、流通しないから、不動産信託受益権に流動性を持たせ、不動産信託受益権市場を活性化させるために、不動産信託受益権を有価証券に指定した意味がある」

だから、不動産信託受益権を取り扱う不動産関連業者(二種業者・運用業者)は、理屈の上では、不動産信託受益権の有価証券指定を歓迎するのが本来の姿ということになります。

さて、不動産信託受益権が金融商品取引法で有価証券に指定されたために、宅建業者(二種業者)や不動産ファンド運用業者が、考慮しなければならなくなったのは、不動産信託受益権の「価格の公正性」です。金商法の直接的な目的は、「公正な価格形成」にあるからです。

不動産関連業者の中には、不動産信託受益権と現物不動産との価格を同一視する者がいますが、これは違います。

不動産信託受益権は、現物不動産(信託財産)から、完全に切り離された「有価証券」です。現物不動産の所有者は信託銀行であり、移転しているのは現物不動産から生ずる配当金と分配金を収受できる権利のみです。この点の理解が欠けていると、現物不動産の価格と信託受益権の価格は違うという点が理解できません。

仮に、現物不動産の価格が、売主と買主の合意によって決まるとしても、つまり、売主又は買主が変われば、違う価格で決定する可能性があるとしても、不動産信託受益権の価格は、配当金と分配金という一定値で決定するため、売主と買主が変わっても、取引価格は一定でなければなりません。不動産信託受益権の価格は、取引当事者に依存しないということです。

だから、こういう検査指摘事項があるわけです。

「運用業者が、SPCに不動産信託受益権を取得させる際、現物不動産にフリーレントが付いていたにもかかわらず、フリーレントを考慮しない鑑定評価を使って、当該不動産信託受益権をSPCに取得させた」

鑑定評価にフリーレントが考慮されていないことを、売主、買主、投資家が、仮に、知っていて、納得していたとしても、フリーレントが考慮されていない鑑定評価を利用することはできません。なぜなら、不動産信託受益権の価格は、配当金(テナント料相当)と分配金(売却金額相当)から、一定金額に決まるものであって、取引当事者に依存しないからです。

実際には、投資家は知らなかったという事例で行政処分になるのでしょうが(本件の行政処分は他の違反と合わせて3か月の業務停止)、不動産信託受益権は、現物不動産から経済的利益を切り離して流通させる仕組みだから、価格は、不動産信託受益権から生ずる配当金と分配金から、一定金額に決まるという原則が揺らぐことはありません。

なお、鑑定業者が異なれば、不動産信託受益権の価格が変わるというのは別の話です。一定金額に決まると言っているのでは、一定のモデルを使っていれば、一定金額に決まるということで、モデルが異なれば、異なる結果が出ても、まったくおかしくないからです。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

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川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。現在、JSL行政書士事務所代表。コンプライアンス・リスク管理コンサルタントとして、上場会社、が外資系企業など多数の金融商品取引業者の顧問に就任。

JSL行政書士事務所は、100社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

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