「顧客本位の業務運営に関する原則」への対応


金融庁は、平成29年3月30日に「顧客本位の業務運営に関する原則」を公表しました。

この公表の結果、金融商品取引業者は、実務的に、何をすることになったかというと、「顧客本位の業務運営を実現するための明確な方針」である「取組方針」を策定し、6月までに金融庁に報告することになりました。

顧客本位の業務運営に関する原則の背景、考え方、パブリックコメントなどについては、金融庁のサイトを参照してください。

金融庁公表資料

ここでは、金融商品取引業者にとって、実務的に重要な点について、実質的な観点からお話しします。

「顧客本位の業務運営に関する原則」とは、金融事業者が採択することが期待される7つの原則です。

「顧客本位の業務運営に関する原則」は、すべての「金融事業者」が従うことが期待される原則です。金融事業者の定義はなく、金融商品取引業者、特例業務届出者、銀行、信託銀行、信用金庫、生保、損保、保険代理店、貸金業者が含まれます。

規模の大小は関係ありませんので、例えば、一人事業主の保険代理店も金融事業者に含まれますので、一人事業主の保険代理店も、顧客本位の業務運営に関する原則に従わなければなりません(パブリックコメント25)。金融商品取引業者も、規模の大小にかかわらず、すべて金融事業者に含まれますから、顧客本位の業務運営に関する原則に従うことになります。

「顧客本位の業務運営に関する原則」は、7つの原則から成り立ちますが、金融商品取引業者は、7つの原則に従った業務運営を行わなければなりません。ただ、目下の対応として金融商品取引業者に求められることは、「取組方針」を策定し、ウェブサイトで公表することです。

「取組方針」とは、顧客本位の業務運営を実現するための明確な方針であると金融庁は説明しています。具体的な内容は、金融商品取引業者が、創意工夫を発揮して決めるものとされています。

取組方針のひな形は存在しません。金融庁がひな形の存在を否定していますので(パブリックコメント41)、日証協、二種業協会、投資顧問業協会などの自主規制団体からも「取組方針のひな形」は公表されないと思います。

取組方針は、第三者的な主体により評価が行われます。取組方針を策定しても、内容によっては、評価機関に否定される可能性があるということです。ですから、取組方針の内容は、何でも良いわけではありません(パブリックコメント38)。

また、「当社は、法令等を遵守し・・・」という内容は認められません。法令は、金融庁のいう「ミニマム・スタンダード」(最低限守らなければならない規則)であって、「原則」は、ミニマム・スタンダードを超えた別のところに位置するものだからです。

取組方針の公表の方法は金融庁から示されていませんが、取組方針をアップロードしたウェブサイトのURLを金融庁に報告することになっていますから、公表の方法は、実質的にウェブサイトに限定されます。自社のウェブサイトを持たない金融商品取引業者は、ウェブサイトの構築・手当が必要です。なお、取組方針は、現在の顧客のみならず潜在的な顧客にも公表しなければなりません。(パブリックコメント46)

取組方針の策定・公表の最初の期限は、今年6月です。取組方針を策定して、ウェブサイトで公表した金融商品取引業者は、金融庁に報告します。報告を受けた金融庁は、金融庁のウェブサイトに、報告をした取組業者の名称を公表します。この最初の公表日が今年の6月末であることから、金融商品取引業者による取組方針の策定・公表の最初の期限は、今年6月になります。

金融商品取引業者は、所定のフォーマットを利用して、取組方針を掲載したウェブサイトのURLを金融庁に報告します。

取組方針を今年6月までに策定・公表しなかった場合でも、罰則はありません。ただし、金融庁は、今年6月末に、取組方針をウェブサイトにアップロードした金融商品取引業者の名称を金融庁のウェブサイトで公表します。

わかりやすく言うと、今年6月までに取組方針を策定・公表しなかった金融商品取引業者は、金融庁が公表する「取組方針」を公表している、いわば優良業者リストから外れます。(パブリックコメント24)

顧客本位の業務運営に関する原則は、あくまで原則です。法令ではありません。ですから、従わないという選択肢もあります。顧客本位の業務運営に関する原則に従わなければ、当然、取組方針の策定も必要ありません。また、原則に従ったとしても、公表するかどうかは金融商品取引業者の任意ですし、公表する時期も任意です。

金融庁は取組方針を公表した取組業者リストを金融庁のウェブサイトで公表します。この最初の公表日が今年6月末です(次の公表日は9月末の予定)。ですから、取組方針の策定・公表の最初の期限は、今年6月になります。

取組方針の策定方法については、別のサイトにまとめましたので、以下をご覧ください。

顧客本位の業務運営に関する原則

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、200社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

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