金商業と金銭の貸付け


10月27日のメールマガジンの抜粋です。


金商業と金銭の貸付けは、きわめて相性が悪いです。相性が悪い「証拠」となる事例を挙げると以下の通りです。

一種業者が、株券を買おうとしている投資家に金銭を貸し付けると、株券の購入が容易になり、金銭の貸付けがなければ投資をしなかった投資家に投資を促す結果、投資家の投資判断を歪める。

二種業者が、不動産信託受益権の買主に金銭を貸し付けると、不動産信託受益権の買付けが容易になり、金銭の貸付けがなければ買付けなかった買主に購入を促す結果、買主が自己資金以上のリスクを負う。

助言業者が、事業型ファンドに投資をするかどうか悩んでいる投資家に金銭を貸し付けると、事業型ファンドの投資が容易になり、投資家に投資を促す結果、投資家が過剰投資をして、過剰なリスクを負う。

一任業者が、ファンドに投資をするかどうか悩んでいる投資家に金銭を貸し付けると、一任契約の締結が容易になり、投資家に投資を促す結果、自己資金以上のリスクを負うため、投資家の損失の危険が増幅する。

このため、金商法は、一種業者、二種業者、助言業者、運用業者のすべてに、顧客に対する金銭の貸付けや金銭の貸付けの媒介などを禁止しています。

一種業者と二種業者による金銭の貸付けその他の信用の供与の禁止規定は、金商法第44条の2第1項第1号、助言業者による金銭の貸付けや金銭の貸付けの媒介などの禁止規定は、金商法第41条の5、運用業者による金銭の貸付けや金銭の貸付けの媒介などの禁止規定は、金商法第42条の6です。

ただし、助言業務と運用業務については、顧客が特定投資家の場合、禁止規定の適用がありません。特定投資家であれば、リスク管理ができると考えられるからです。(一種業者や二種業者の金銭の貸付けその他の信用の供与については、顧客が特定投資家であっても禁止)

以上を踏まえて、次の問題を考えてみてください。

問題1
投資助言業者又は投資運用業者たるAMがSPCに対し、出口の一つとして、リファイナンスについての助言を行うことがあるが、当該助言は、レンダーの選定や条件の比較等について借手側で行うにすぎない。この場合は、金商法第41条の5・第42条の6に規定される貸付けについての「媒介、取次ぎ若しくは代理」には該当せず、AMは当該SPCに対してリファイナンスについての助言ができるか。

回答1
問題1は、先に挙げた事例の場合と様相が異なります。事例はすべて「買主」に金銭を貸し付ける場合を想定していますが、問題1は発行者(ファンドの売主)に対する金銭の貸付けの場面であり、しかも、金銭の貸付けでも、金銭の貸付けの媒介でもなく、SPCに対する金銭の借り入れに関する単なる「助言」を行う場合です。

これに対して金融庁は、「ご指摘の行為は、金商法第41条の5及び第42条の6に規定する禁止行為(顧客への第三者による金銭等の貸付けの媒介・取次ぎ・代理)に該当する可能性があると考えられます。」と回答しています。(平成19年7月31日パブリックコメントの結果425頁)

金融庁の示した回答は、SPCが特定投資家でなければ、当然の結論です。

問題2
顧客がSPCである場合であって、SPCに対する出資持分など、SPCが発行するすべての有価証券の所有者の承諾を得た場合であれば、SPCに対する金銭の貸付けの媒介等の行為は認められるか。

回答2
ファンドの助言業者や運用業者を見ていると、何でもかんでも、投資家の承諾を得ていればできると考えている節があるように見えます。「投資家が納得しているのだからいいだろう」という安易な発想です。

問題2に対する金融庁の回答は、「顧客に金銭・有価証券の貸付け又はその媒介等を行う行為は、当該顧客の承諾の有無等にかかわらず一律に適用される禁止規定」である、です。(平成19年7月31日パブリックコメントの結果442頁)

金商業者による金銭の貸付けや金銭の貸付けの媒介等が禁止されている趣旨は、投資家の過剰投資を抑止することにあることから、有価証券の所有者が納得していても認められないという回答です。

ファンドの助言業者や運用業者の「投資家が納得しているのだからいいだろう」という発想が常に通用するほど、投資家は投資に関して熟知しているわけではないのですから、金融庁の回答は、当然の回答です。


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プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。現在、JSL行政書士事務所代表。コンプライアンス・コンサルタントとして、上場会社、が外資系企業など多数の金融商品取引業者の顧問に就任。


JSL行政書士事務所
Tel: 03-5533-8785

JSL行政書士事務所は、100社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

メールマガジン:、金融商品取引法専門メールマガジンを200社を超える金融商品取引業者と金融当局に配信中

JSL行政書士事務所
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