大相撲の事件とコンプライアンス


横綱が平幕力士を殴ったという事件を例に、コンプライアンス・リスク管理とはどのような活動かを検証してみましょう。

以前にも大相撲では横綱が人を殴ったという事件があり、この事件を受け、相撲協会は、力士に対して、「研修」を行ってきました。

社内研修は、コンプライアンス担当者の「平常時」の業務においては、最も重要なコンプライアンス活動です。

ところが、横綱が平幕力士を殴った行為は「事件」であり、相撲協会は、現在、「異常時」にあります。研修はコンプライアンス活動として、平常時には力を発揮しますが、異常時には無力です。

事件が起きてしまったときのコンプライアンス活動は、「コンプライアンス・リスク管理」です。

金融庁も触れている「コンプライアンス・リスク管理」とは何でしょうか。

「リスク」は、日本では「危険」と訳されることが多いですが、本来「可能性」のことであり、顕在化すると会社や協会など、組織に問題を引き起こす可能性のことです。

例えば、レピュテーションリスクとは、評判を下げる可能性であり、顕在化すると組織に問題を引き起こす可能性のことです。
このような事態を回避する行動が、「コンプライアンス・リスク管理」と呼ばれます。

ヨーロッパでは「コンプライアンス」といえば、「コンプライアンス・リスク管理」という異常時対応を指すという国がありますが、日本では「コンプライアンス」といえば、未だに社内規則の整備や社内研修の実施などを通じた法令等や慣習違反の回避という、平常時の対応を意味することが多いです。(金融庁はこれを欧州流に変えようとしている)

今回の事件で、相撲協会は、既に次の2つの大きな間違えを犯し、コンプライアンス・リスク管理に失敗しています。

1 関係者による隠ぺい

2 相撲協会の対応の遅れ

相撲協会によると、10月に事件が起きたとき、事件が起きた場所には、複数の力士がいたにもかかわらず、理事長まで事件が正確に報告されなかったということです。このため、「相撲協会内には、悪いことにはふたをする隠ぺい体質がある」と指摘されるコンプライアンス・リスクがあり、顕在化すると相撲協会や力士に対する不信感を生み、来年の1月場所以降、観客が激減する可能性があります。

対応の遅れも問題です。報道によると、10月下旬に事件が起き、11月上旬に警察に事情聴取された理事長は、関係する親方に事情を確認していますが、親方が「問題ない」と報告したため、調査を開始しませんでした。

理事長は関係者を集めて事情を聞くべきだったところ、しなかったわけですが、このことは、理事長あるいは相撲協会に、コンプライアンス・リスク管理に対する意識が欠如していることを露呈しました。

また、場所入りした後に事件が公になったとき、相撲協会は、危機管理委員会を設置して調査をすると公表し、関係者の処分を決めると公表しましたが、危機管理委員会による調査も、関係者の処分も、「場所後」に行うということです。

事件が10月下旬に起きているのに、対応が11月下旬になるということで、1か月放置することになります。この結果、相撲協会は、「反省の色がない」と批判されるコンプライアンス・リスクを負ってしまい、実際、マスコミが既に疑問を投げかけています。

なお、危機管理委員会で調査をするといっていますが、危機(事故がおきる可能性)は既に顕在化しているのですから、危機を管理する段階は終わっています。相撲協会における「危機」の意味の理解不足が原因ですが、立ち上げるなら「事故調査委員会」です。

関係者による隠ぺいと相撲協会による対応の遅れは、「大相撲」に対する不信感を招くというコンプライアンス・リスクを発生させ、せっかく長い年月をかけて相撲人気を復活させたにもかかわらず、来場所以降、相撲ファンの多くを失い、収益を激減させるコンプライアンス・リスクが顕在化するおそれがあります。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。現在、JSL行政書士事務所代表。コンプライアンス・コンサルタントとして、上場会社、が外資系企業など多数の金融商品取引業者の顧問に就任。


JSL行政書士事務所
Tel: 03-5533-8785

JSL行政書士事務所は、100社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

メールマガジン:、金融商品取引法専門メールマガジンを200社を超える金融商品取引業者と金融当局に配信中

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