2018年のコンプライアンス


2018年1月4日のメールマガジンの抜粋です。



大発会に日経平均株価が大幅に上昇しました。調べたことはありませんが、私の記憶では、大発会に大幅上昇すると1年を通じて上昇し続ける傾向があります。

株価は上昇し、不動産の価格は高値を維持し、賃金は上昇しと、平成に入り初めて本格的な好景気に入ったという印象があります。

好景気には、いずれの会社も営業に注力し、顧客層を広げ、収益の最大化を目指すのが常道ですが、昭和の好景気と平成の好景気との大きな違いは、経済活動において「コンプライアンス」がキーワードになっている点です。

私が、証券取引法のコンプライアンスを初めて担当したのは今から26年前ですが、当時、「会社で何を担当しているのですか」と尋ねられたとき、「コンプライアンです」と回答すると、全員から「コンプライアンスって何?」という反応をされました。

現在では、就活中の大学生が「会社に入ったらコンプライアンスを担当したい」という時代なので、コンプライアンスが社会に根付いていることがわかります。

コンプライアンスとは、一般に、法令等遵守活動を指しますが、従来、金融行政においてコンプライアンスといえば、行政当局の期待を満足させる活動でした。

1998年に当時の橋本内閣が行った日本版金融ビッグバンの中で、金融システム改革法が作られ、現在の金商法の原型ができたわけですが、このときまでの金融行政は通達行政であり、大蔵省内の上意下達文章である通達を遵守することが、現在でいう金商業者に求められたコンプライアンスでした。

実際、1997年まで、コンプライアンス担当者である私の仕事は、通達を解釈し、社内に通達を浸透させることでした。

1998年以降、通達行政は廃止され、代わりに金融庁(当時は金融監督庁)が「ガイドライン」を発信し、このガイドラインが現在の「監督指針」になり、金商業者のコンプライアンスといえば、金融庁の監督指針と証券取引等監視委員会の「検査マニュアル」を遵守し、当局による法令、監督指針、検査マニュアルの解釈に従うことを意味するようになりました。

実際、1998年以降の私の仕事は、当局の意向を正確に読み解き、当局の意向を社内に反映させることでした。

あれから、ちょうど20年となる2018年、金商業者のコンプライアンスは、大きく変容し、金融庁が推進する「顧客本位」が、コンプライアンスのキーワードになっています。

ですから、2018年以降、金商業者のコンプライアンス担当者にとって最も重要な仕事は、金商業者の業務運営が顧客本位になっているかどうかをモニタリングすることです。

顧客本位というと、必ず、「当社は、投資家に迷惑をかけていないから大丈夫」といい始める金商業者が現れます。特に、不動産系の金商業者の中には、この発想をする人が多いです。

まず、顧客本位の「顧客」とは、取引先ばかりでなく、金商業者の業務で影響を受ける者一般のことです。

例えば、ファンドであれば、ファンドの投資家ばかりでなく、投資家が機関投資家であれば、投資家に金銭を拠出している者も顧客です。

また、忘れられがちですが、実際には投資しなかったけれども、投資を検討した者も顧客です。金商法が取引規制ではなく、勧誘規制であることから、当然です。

さらに、顧客本位の業務運営といったとき、顧客の利益を重視することが大切ですが、ここで「利益」とは、金銭的な利益のみを指すのではなく(顧客が儲かれば良いのではなく)、顧客に過大なリスクを取らせない体制を構築するとか、金商業者や金商業者のグループ会社と顧客との間の利益相反を起こさない体制を構築するとか、そういった顧客の「潜在的な不利益」を回避する金商業者の行動から導き出される顧客の総利益のことです。

このことを短文で表現したものが、「顧客本位の業務運営に関する原則」です。

以上から、2018年の金商業者には、好景気に乗って営業に注力しつつ、潜在的な取引相手を含めた顧客の真の利益とは何かを追求し、体制整備を進めるなど、それにかなうコンプライアンス活動を実行することが求められ、当局のモニタリングにおいても、この点が重視されると考えます。

2018年以降、金商業者のコンプライアンス活動の重点が、従来の当局検査や内部監査のように、個々の法令違反行為を発見する活動ではなく、顧客本位に反する行為・状態を起こさない体制を整備する活動に移ることに注意が必要です。



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プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。現在、JSL行政書士事務所代表。コンプライアンス・コンサルタントとして、上場会社、が外資系企業など多数の金融商品取引業者の顧問に就任。


JSL行政書士事務所
Tel: 03-5533-8785

JSL行政書士事務所は、100社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

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