ブロックチェーンラボ(Blockchain Laboratory Ltd.)事件


2018年2月13日、金融庁は、マカオに本拠地を置くブロックチェーンラボ(Blockchain Laboratory Ltd.)が、資金決済法に基づく登録を受けずに、国内の利用者を相手に仮想通貨交換業(仮想通貨の売買の媒介)を行っていたことについて同社に警告を発すると同時に、金商法に基づく登録を受けずに、国内の投資家者からICO(Initial Coin Offering)で金銭を調達したことについて同社に警告を発しました。

この警告を理解するためには、資金決済法の規定と金商法の規定を理解する必要があります。

まず、資金決済法違反について。

資金決済法は、仮想通貨交換業を行う者に対し、資金決済法に基づき金融庁長官の登録を受けることを義務付けています。

ここで、仮想通貨交換業とは、仮想通貨の売買(仮想通貨と金銭の交換)や売買の媒介、仮想通貨と他の仮想通貨との交換や交換の媒介を行う行為を意味します。

仮想通貨交換業を行う者のことを「仮想通貨交換業者」と呼びますが、仮想通貨交換業者は、資金決済法に基づき登録を受けなければならないところ、同社は、仮想通貨交換業者としての登録を受けずに、仮想通貨の売買の媒介を行っていたことから、警告を受けたものです。

なお、報道で、仮想通貨の売買を行うところを「仮想通貨取引所」と言っているのは、この仮想通貨交換業者のことで、仮想通貨の売買等を行う者については、正しくは、仮想通貨交換業者と呼ぶべきところ、マスコミは、誤解から、仮想通貨取引所と呼んでいます。

事件について金融庁が公表している情報が少なく、同社のどの行為が仮想通貨交換業に該当したのかはっきりしませんが、同社は、国内の利用者を相手に、仮想通貨の売買の媒介、つまり、国内の利用者が仮想通貨を金銭で買い付ける(売買する)行為の媒介を行っていたということです。

ここでも、報道の誤解が目立ちますが、仮想通貨を売買する者は、仮想通貨の「利用者」であって、「投資家」ではありません。資金決済法は、JR東日本のスイカのような決済手段を規制する法律であり、スイカの利用者は(当然のことながら)「利用者」であるように、仮想通貨の売買を行う者も「利用者」です。

別の言い方をすると、日本の現行法は、仮想通貨に関しては、利用者を想定しているのであって、仮想通貨の売買で利ザヤを稼ぐ投資家の存在を想定しないということです。この結果、仮想通貨交換業を規制する資金決済法は、仮想通貨の利用者を保護する法律になってはいますが、仮想通貨の投資家を保護する法律になっていない(仮想通貨の投資家を保護する法律は、現在、日本に存在しない)点に注意が必要です。

次に、金商法違反について。

金商法は、仮想通貨の場合と異なり、「投資家」を保護する法律ですが、投資家から金銭を集める行為を規制し、投資家から金銭を集めて事業を行う者に対し、金商法に基づき、金融庁長官の登録を受けることを義務付けています。

投資家から金銭を集める行為は「自己募集」と呼ばれる行為で、自己募集を行う者は、金商法に基づき「第二種金融商品取引業」(二種業務)に関して登録を受けて、第二種金融商品取引業者(二種業者)にならなければなりません。

また、自ら金銭を集めるのではなく、投資家から金銭を集める者のために、代わりに、投資家を集める行為は、「募集の取扱い」又は「私募の取扱い」と呼ばれる行為で、このような行為は、やはり、二種業務であって、二種業者として登録を受けている者でなければ合法的に行うことができません。

投資家から金銭を集める行為のうち、大衆から広く金銭を集める行為は、特に、「クラウドファンディング」と呼ばれます。

ICOのうち、投資家から金銭を集めてトークンを発行する行為は、仕組みがクラウドファンディングであることから、金商法の適用を受け、二種業者でなければ合法的に行うことができません。

金融庁の警告の内容と報道によれば、同社は、ICOで国内の投資家からドルを集めていたということですから、同社の行為はクラウドファンディングであり、同社は二種業者でないことから、金融庁が警告を発したわけです。

最後に、ICOは、一律、二種業務であるかどうかについて触れておきます。

金商法は、投資家から「金銭」を集め、事業を行い金銭を増やして投資家に還元(配当)する行為を二種業務と定めています。

したがって、金銭以外のモノを集める行為は二種業務ではなく、また、投資家から金銭を集めただけで、集めた金銭を増やして投資家に還元(配当)しないのであれば、投資家から金銭を集めても、二種業務ではありません。

事件について金融庁が公表している情報が少なく、正確なとことはわかりませんが、同社の場合、投資家からドル(金銭)を集め、ドルを仮想通貨で運用して投資家に還元(配当)する行為を行っていたことから、同社が行ったICOは、二種業務と判断されたようです。

一方、ICOで、金銭ではなく仮想通貨を集める行為は、「金銭」を集めていないので、金商法の文言上は、二種業務ではありません。ただし、2017年10月27日に、金融庁は、ICOで、金銭相当の仮想通貨を集める行為も、二種業務であるという趣旨のコメントを公表しています。

資金決済法に規定する「仮想通貨」とは、金銭(法定通貨)と交換できるモノと、金銭と交換できる仮想通貨と交換できるモノです。したがって、資金決済法が想定する仮想通貨は、いずれも、金銭相当と認められる可能性があります。

以上から、ICOで投資家から仮想通貨を集める者やICOを行う者に代わって投資家を集める者は、二種業者として登録を受けることを検討すべきだと思います。

なお、ICOを行う者(資金調達者)が、投資家を集める行為を自ら行わず、投資家を集める行為を二種業者に100%委託している場合、資金調達者の行為は、二種業務ではありません。ですから、ICOを行う者は、二種業者を探して、二種業者に投資家を集める行為を100%委託すれば、自らは二種業者として登録を受けることなく、資金を調達することが可能です。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。現在、JSL行政書士事務所代表。コンプライアンス・コンサルタントとして、上場会社、が外資系企業など多数の金融商品取引業者の顧問に就任。


JSL行政書士事務所
Tel: 03-5533-8785

JSL行政書士事務所は、100社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

メールマガジン:、金融商品取引法専門メールマガジンを200社を超える金融商品取引業者と金融当局に配信中

JSL行政書士事務所
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階
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