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有価証券報告書の虚偽記載


11月20日のメルマガ(号外)の抜粋です。



カルロス・ゴーン氏が東京地検に逮捕されたというニュースが大きく取り上げられました。容疑は、金商法違反だという見出しを見て、「インサイダー取引かな」と思いましたが、有価証券報告書の虚偽記載でした。

正確には、虚偽の記載のある有価証券報告書を提出した罪ですが、虚偽の記載のある有価証券報告書の提出は、金商法で最も重い刑事罰の対象となっている行為で、インサイダー取引規制違反が懲役5年であるのに対し、虚偽の記載のある有価証券報告書の提出は、倍の懲役10年です。

インサイダー取引規制違反と、虚偽の記載のある有価証券報告書の提出の罰則は、なぜ、これほどまで違うのでしょうか。

インサイダー取引は、金商法の「不公正取引規制」の対象の一つです。不公正取引は、市場を歪めるおそれがあるため禁止されています。

歪められた市場に投資者が参加すると、投資者は不測の損害を被るおそれがあります。このように、不公正取引は、間接的に投資者に作用し、投資者は不測の損害を被るおそれがあることから禁止されているわけです。

有価証券報告書の提出は、金商法の「開示規制」の一つです。開示規制は、基本的に、有価証券の発行者が、投資者に対して情報を提供する方法や提供すべき情報の内容等を定めた規定です。

有価証券報告書に虚偽の記載があると、投資者は投資判断を誤るおそれがあります。このように、虚偽の記載のある有価証券報告書の提出は、直接的に投資者に作用し、投資者は不測の損害を被るおそれがあることから禁止されているわけです。

このように、虚偽の記載のある有価証券報告書の提出は、直接的に「投資者の投資判断」に影響する行為なので罪が重いと考えられます。

有価証券報告書に虚偽の記載が横行すると、投資者はどうなるでしょうか。誰も投資しなくなります。

すると、(上場している)株式会社が、資金調達ができなくなるわけで、株式会社制度が崩壊し、国民経済の健全な発展を阻害します。

今回、報道されている範囲では、有価証券報告書に記載されたゴーン氏の報酬が、実際の半分だったということで、この情報は、会社側からもたらされたということです。

役員の報酬が高いと株主総会で問題になる可能性はありますが、ゴーン氏の年俸が投資者の投資判断にどれほどの影響を及ぼしていたかはわかりません。

ただ、有価証券報告書に記載した以上、正しい情報を提供すべきだったことは、金商法上、確かであり、「有価証券報告書の虚偽記載でも、この程度なら良い」とゴーン氏が考えていたとすれば、発想が間違っています。

もっとも、今回の事件は「ゴーン氏に権限が集中し過ぎた結果」という趣旨の発言をしている会社経営者にも責任があると考えるのが自然だと思います。

ゴーン氏に権限が集中していたといっても、EDINETで確認したところ、有価証券報告書には、提出者(提出会社の代表)として、会見に応じた取締役社長の氏名が記載されているし、作成者(連絡担当)として、経理部連結会計グループの主任の氏名が記載されています。

しかも、有価証券報告書は、日本語で書かれています。社内資料を基に有価証券報告書を作成して提出したのは、ゴーン氏ではありません。

金融商品取引法違反であると報道されていますが、刑事罰の対象になる行為は、「有価証券報告書の虚偽記載」ではなく、「虚偽記載のある有価証券報告書の提出」です。

会社経営者も、虚偽の記載のある有価証券報告書の提出に直接的に関与していたとすれば、金商法違反に問われてもおかしくありません。

上場会社など、有価証券報告書提出会社にとって、本件は、他山の石とすべき事件であると考えます。



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テーマ : 金融商品取引法
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川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。現在、JSL行政書士事務所代表。コンプライアンス・コンサルタントとして、上場会社、が外資系企業など多数の金融商品取引業者の顧問に就任。


JSL行政書士事務所
Tel: 03-5533-8785

JSL行政書士事務所は、100社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

メールマガジン:、金融商品取引法専門メールマガジンを200社を超える金融商品取引業者と金融当局に配信中

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