投資運用業の行為規制4


自己取引の禁止には、例外規定があります。自己取引の禁止は忠実義務違反の現れですから、忠実義務に違反していないことが担保されていれば、自己取引を禁止する必要がありません。

金融商品取引法は、担保の方法として、権利者すべての同意を取り付けることとしました。さらに、自己取引の対象が、取引所で行われている有価証券の売買など、取引価格が公正であると認められる取引、具体的には、投資運用業者の恣意性が排除されている取引であることが求められています。

取引価格が公正であると認められる取引が、自己取引の禁止の例外となる取引であることはわかるのですが、権利者すべての同意が必要な理由は不明です。権利者が同意しているか否かは、忠実義務違反を判定する材料にはならないと考えるからです。

<運用財産相互間取引の禁止>
投資運用業者は、運用財産相互間において取引を行うことを内容とした運用を行うことが禁止されています。

同一の投資運用業者がAファンドとBファンドを運用していた場合、AファンドとBファンドのとの間で取引を行う運用はできないということです。

運用財産相互間取引の禁止規定も忠実義務の現れです。Aファンド有利・Bファンド不利な取引、逆に、Aファンド不利・Bファンド有利な取引が行われないようにするための規定です。

<グループ内投資運用業者間の取引>
運用財産相互間取引の禁止規定は、大原則として、「同一の」投資運用業者が運用にかかわるファンド間の取引に限定されます。

ですから、例えば、X投資運用業者とY投資運用業者が同じグループに所属している場合であっても、大原則として、Xが運用するファンドとYが運用するファンドとの間の取引は禁止されません。

ただし、例外的に、X・Y間の取引が、運用財産相互間取引の禁止規定の潜脱行為であると認められる場合には、同規定が適用されると考えられます。(金融庁パブリックコメント回答430ページ参照)

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投資運用業の行為規制3

投資運業者は、ファンドとの関係において、原則として、自己又はその取締役・執行役との間における取引を行うことを内容とした運用をすることができません。


自己取引の禁止規定です。自己取引を許してしまうと、自己は高く売りたい・ファンドは安く買いたい、自己は安く買いたい・ファンドは高く売りたいという関係に立っているため、ファンドに不利な条件での取引が生じる可能性があるからです。投資運業者の忠実義務違反を引き起こす可能性があるというわけです。

自己取引の禁止規定は、広い概念です。例えば、複数のファンドを運用している投資運業者による次のような取引が自己取引の禁止規定の対象になるかどうかは要件等です。

<複数のファンドを運用している場合>
投資運業者がAファンドとBファンドを運用している場合、AファンドがBファンドの投資家として参加することができるか?

これは、投資運用業者が、直接、自己の勘定とファンドの間で取引を行っているものではありません。また、別の機会に説明するファンド間の財産の売買にも該当しません。

金融庁の見解は、こうです。

「同一の金融商品取引業者等が複数のファンドの運用を行う場合において、一のファンドから他のファンドへの出資が行われる場合には、不必要な出資や一方のファンドに不利な条件での出資が行われる可能性があることから」自己取引の禁止規定の例外とすることは、当社保護の観点から適切でない。

<自己取引の禁止規定の範囲>
この見解によると、自己取引の禁止の意味は、規定の文言よりも広く、ファンドは実質的には他人勘定であるにもかかわらず、投資運用業者が、主体的に運用しているファンドも「自己」に該当するということになってしまいます。

ですから、自己取引の禁止規定は、文言上、自己勘定とファンドのとの間の取引の禁止になっていますが、意味は、自己の意思が介在し得る勘定とファンドとの間の取引の禁止規定あると読むことになります。

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投資運用業の行為規制2


投資運用業者は他の金融商品取引業者同様に、顧客や顧客の指定した者に対する「特別の利益の提供」が禁止されています。

<特別の利益の提供>
特別の利益の提供の禁止規定は、損失補てんの禁止規定よりも広い範囲の行為を禁止する者です。

ここで常に問題になるのが「どこから特別の利益になるの?」という点です。

例えば、投資運用業者が顧客ごとに違った運用報酬を設定していた場合、他の顧客よりも低い運用報酬の設定は特別の利益の提供になるのかどうかという形で、問題になります。

<禁止される理由>
特別の利益の提供が禁止される理由は、基本的に損失補てんが禁止されている理由と同じです。

1 金融商品取引業者が顧客に特別の利益を提供すると、投資一任契約など金融商品取引契約を顧客が損失の危険を十分に検討せずに安易に締結する可能性がある。

2 金融商品取引業者による特別の利益の提供を許すと、金融商品取引業者の過当競争を引き起こし、金融商品取引業者の財務の健全性を損ね、投資家保護上、問題が生じる可能性がある。

3 特別の利益の提供を受けたことを理由として金融商品取引契約を締結した顧客が投じた資金は、本来、市場に提供されるべき資金ではないため、市場の公正性、特に価格の公正性をゆがめる可能性がある。

<どこから特別の利益か>
特別の利益の範囲を画する基準は、禁止される理由である1から3の可能性がない場合ということになります。

例えば、あらかじめ運用報酬の基本方針を定めておくことは、特別の利益の提供と認定されないための方法の一つになります。

当然のことですが、この場合、基本方針が妥当なものでなければなりません。妥当かどうかを判断するためには、金融商品取引法のコンプライアンスに詳しい第三者に相談して、客観的な妥当性を担保することが有効な手段であると考えます。

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投資運用業の行為規制1


投資運用業を行う金融商品取引業者(投資運用業者)の方には、第一種金融商品取引業や第二種金融商品取引業に適用される行為規制に加え、別途、投資運用業者のビジネスの特質に応じた行為規制が適用されます。

行為規制とは、金融商品取引業者の事業に対する規制で、通常、「何々してはならない」という形式の条文になっています。

<損失補てんの約束の禁止>
投資運用業者は、投資一任契約等を締結するために顧客を勧誘するに際し、顧客に対して、損失の全部又は一部を補てんする旨を約束してはならないという行為規制は、損失補てんの約束の禁止、又は、損失補てんの禁止といいます。

なぜ、損失補てんは禁止されるのでしょうか。

<損失補てん禁止の理由>
損失補てんが禁止される理由は、顧客側と投資運用業者側の両方の事情によります。

まず、顧客側としては、投資運用業者が顧客に「損失が生じたら補てんしますから安心してください!」などと宣伝してしまうと、顧客が安易に投資一任契約等を締結するおそれがあります。

結果、金融商品取引契約の原理原則である「自己責任の原則」に反することになるからです。

自己責任の原則とは、顧客は投資によって生じた利益を享受できるが、発生した損失も甘受しなければならないという概念です。

投資運用業者側の事情もあります。

投資運用業者が損失補てんをしてしまうと、投資運用業者の財務の健全性に影響が生じる可能性があります。投資運用業者の財務の健全性が損なわれると、顧客が投資した資金の回収が困難になるおそれがあるなど、投資家保護に反する結果になりかねません。

以上のような理由から、投資運用業者による損失補てんの約束は禁止されています。

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特別の利益の提供


証券取引等監視委員会が、一部の外資系証券が年金基金の幹部に過剰な接待をした可能性があり、過剰な接待は金融商品取引法が禁止する「特別の利益の提供」にあたる可能性があることから、調査を進めていると報道されています。

この問題は、みなし公務員に対する接待という金融商品取引法とが別次元の問題を抱えていますが、金融商品取引法の観点から言うと、過剰な接待は「特別の利益の提供」になる可能性をはらんでいます。

特別の利益の提供の禁止規定は、一般的に、金融商品取引業者が慣習を超えた利益を顧客に提供した場合に適用されます。

接待も慣習の範囲内なら認められるかもしれませんが、過剰になると特別の利益の提供になります。

特別の利益の提供が禁止される理由は、特別の利益の提供を受けた顧客は安易な取引をする可能性があること、特別の利益を提供して成立した取引は顧客と金融商品取引業者との間の紛争の火種になる可能性が高いと考えられること、金融商品取引業者が特別の利益を提供すると金融商品取引業者の財務の健全性が損なわれる可能性があることなどです。

特別の利益の提供として過去指摘された事例としては、過剰な接待の他に、顧客の損失を先送りするために金融商品のリストラクチャリングをした行為、取引の条件として不要なレポートを投資顧問会社から購入した行為などがあります。

特別の利益の提供は損失補てんと似ていますが、損失補てんは顧客の売買の結果生じた損失を補てんする行為です。

プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<ブログの紹介>
金融商品取引法の体系としては、「金融商品取引法」、「金融商品取引法施行令」の他に、「定義府令」、「企業内容開示府令」、「特定有価証券開示府令」、「証券情報提供府令」、「金商業等府令」、「取引等規制府令」、「開示ガイドライン」などがあります。つまり、膨大だということです。

ただし、金融商品取引法が対象としているものは、2つしかありません。「有価証券」と「デリバティブ取引」です。これ以外のことを金融商品取引法は対象にしていません。また、金融商品取引法の規制には、3つの種類しかありません。「開示規制」、「業者規制(行為規制)」、「不公正取引規制」です。先に挙げた内閣府令はすべて(例外なく)、この3つのいずれかに関連しています。

開示規制は、上場会社や公募債発行の経験あるいは予定のある会社に関わる規制です。業者規制は、金融商品取引業者はもちろん、自主規制機関にも関わる規制です。不公正取引規制は、すべての人(個人・法人、居住者・非居住者を問わない)に関わる規制です。このため、膨大かつ難関な法律とされています。

このブログは、膨大かつ難解な金融商品取引法を、実務経験と知識に基づき、実務に役立つように、やさしく解説している、金融商品取引法の実務に関する日本初の、情報量で国内最大のブログです。

<プロフィール>
川崎善徳。1988年、慶應義塾大学文学部卒業、住友信託銀行に入社。1992年から証券業務のコンプライアンスを担当。1999年、転職し、アセットマネジメント会社や銀行のコンプライアンス部門を経て、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。2004年、行政書士登録。JSL行政書士事務所代表。

JSL行政書士事務所は、200社以上の金融商品取引業者との取引経験に基づき、金融商品取引業者の監査とコンサルティングを実施するコンサルティング・オフィス。また、金融商品取引業者のM&Aのアドバイザー、社内研修の講師、セミナーの講師も行っている。顧問契約を締結している金融商品取引業者は、証券会社(一種業者)、不動産信託受益権販売業者(二種業者)、事業型ファンド販売会社(二種業者)、不動産信託受益に関する助言業者(助言業者)、株券に関する助言業者(助言業者)、不動産AM(運用業者)他と多様な業種に及ぶ。

著書・雑誌:「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、「プレジデント」(取材)、「週刊金融財政事情」(取材)他

社内研修:東証一部上場会社、ジャスダック上場会社、上場会社の子会社、独立系企業、外資系企業と多岐にわたる金融商品取引業者の依頼に応じて日本全国で役員研修・社員研修を実施

セミナー講師:「投資助言業者のための検査対策」(金融財務研究会)、「第二種金融商品取引業者のための検査対策」(金融財務研究会、金融ファクシミリ新聞)、「第二種金融商品取引業者のための効果的な内部監査」(金融ファクシミリ新聞)

JSL行政書士事務所代表
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビルディング1階
電話:03-5533-8785
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